住む人がいない空き家の状態が長くなると、家は徐々に傷み、また衛生状態も悪化します。そういった管理状態の悪い空き家が増え、倒壊の危険や景観悪化が問題視された結果、2015年5月26日に「空家等対策の推進に関する特別措置法」(※1)、いわゆる空家等対策特措法が完全施行され、同法に基づいて行政による指導や代執行などの措置が実施されています(※2)。

今回は、空き家の現状や問題点、さらには空き家を相続した際の対策をご紹介いたします。

※1 出典:国土交通省 空家等対策の推進に関する特別措置法条文(http://www.mlit.go.jp/common/001080536.pdf
※2 出典:国土交通省 空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について(H29.10.1時点)(http://www.mlit.go.jp/common/001222398.pdf

空き家の対策が必要とされる理由

空き家の増加やその対策が言及されるようになって久しいですが、では空き家が増えることで何が問題となるのでしょうか。

そもそも空き家とは

空き家と一言でいっても、長期出張や入院、住居は別にあるが週末使用しているなど、利用形態や不在にしている期間にはかなり幅があります。法律ではどういった状態を「空き家」と定義しているのでしょうか。

まず、空家等対策特措法(※1)の第2条1項によると、空き家の定義は下記のようになっています。

「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。

利用形態によらず、使用していない状態が常態化していると空き家ということになります。どの程度の期間で不使用が常態化していると言えるかについては、「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針」(※3)のP8に記載があります。

「居住その他の使用がなされていない」ことが「常態である」とは、建築物等が長期間にわたって使用されていない状態をいい、例えば概ね年間を通して建築物等の使用実績がないことは1つの基準となると考えられる。

つまり、一年程度使用していない状態が続くと「空き家」であると言えます。

※3 出典:国土交通省 空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針(http://www.mlit.go.jp/common/001126396.pdf

日本では今後も空き家がますます増加予定

今後、少子高齢化や都市部への人口移動によりますます空き家は増加していくと予想されます。2013年に行われた総務省の「住宅・土地統計調査」の空き家に関する特別集計(※4)と、それをもとにした野村総合研究所の予測(※5)によると、総住宅数に対する空き家率は2013年時点で13.5%程度ですが、2033年には30%を超えると予想されています。

こういった空き家は相続や転居などで生まれます。特に、両親が家を残して亡くなったが、仕事や子育てなどの理由から実家を利用できず、そのまま放置してしまうといった状況は往々にして起こります。

なお、2014年の国土交通省が実施した「空家実態調査」では、空き家の取得理由について調査しており、空き家所有者の実に50%以上が相続で空き家を取得しています(※6。つまり、半数以上の方が、自分の意思にかかわらず空き家を取得することになっているのです。

※4出典:総務省 住宅・土地統計調査 特別集計(http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/tokubetu_2.html
※5 出典:野村総合研究所<2017年度版>2030年の住宅市場(https://www.nri.com/jp/event/mediaforum/2017/pdf/forum254.pdf
※6 出典:国土交通省 空家実態調査(http://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000088.html

固定資産税の増額や解体費用の負担が原因で空き家が放置

自分で管理できない空き家を取得した場合、売却、解体、賃貸などいくつか選択肢がありますが、解体を選択すると2つの問題がでてきます。それは固定資産税の増額と、建物解体費用の負担です。

土地の固定資産税は、その土地に住宅が存在すると200㎡までの部分は1/6(都市計画税は1/3)に、200㎡を超える部分は1/3(都市計画税は2/3)に減額されますが、住宅を解体するとこの減額がなくなります

もう一つの問題は建物の解体費です。家の大きさや構造にもよりますが、100万~200万円程度かかり、これもかなりの負担となります。

すぐにその敷地を売却するなら良いですが、そうでない場合、上記の2つの負担が重くのしかかり、放置を選ぶ理由となってしまいます。

空き家の放置が招く治安・景観の悪化

上記の問題などから、空き家を放置したままにすると、徐々に湿気などで建物が傷み始め、壁面の損壊や屋根の落下、最悪の場合ですと倒壊の恐れもでてきます。さらに蔦や草に覆われると周囲の景観にも悪影響を及ぼします。

また、外観から空き家だとわかるようになると、犯罪に利用されるなど治安の悪化を招くことにもなりかねません。

都市部でも空き家が目立ち、土地の有効活用を妨げている

都市部でも少子高齢化の影響から空き家は増加傾向にあります。特に都市部では地価が高いため、建物を取り壊すと固定資産税の負担がかなり重くなります。

そのため、住宅需要が多いにもかかわらず、空き家が放置されているといったアンバランスな状態が起こってしまいます。

2015年には『空家等対策の推進に関する特別措置法』が施行

以上のように様々な空き家に関わる問題が表面化したため、増え続ける空き家問題を解消すべく、2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空家等対策特措法)が施行されました。

放置されている「空家等」と、さらに著しく管理状態の悪い「特定空家等」を定め、空き家の調査や、該当する建物に対して、行政による助言や命令などによる管理状況の改善を進め始めました。

ここで「特定空家」とは、空家等対策特措法の第2条2項より、下記の状態に当てはまる空家等のことをいいます(※1)。

空家等対策特措法による処分の流れは以下の通りです。

  • ①空家の調査
  • ②特定空家等への指定
  • ③助言
  • ④指導
  • ⑤勧告
  • ⑥命令
  • ⑦行政代執行

②特定空家等への指定後、行政よりまずは③④助言・指導が行われます。これに対応しないままでいると⑤勧告が行われ、固定資産税等の住宅用地特例の対象から除外されてしまい、固定資産税が増加してしまいます(※7)。

勧告に従わずに行政より⑥命令を受けると、その命令に従わない場合50万円以下の罰金を科されます。それでも改善が見られない場合、行政が所有者に代わって執行する⑦行政代執行が行われます。また、この行政代執行にかかった費用は建物の所有者に請求されます。

※7 出典:国土交通省 空家の除却等を促進するための土地に係る固定資産税等に関する所要の措置(固定資産税等)(http://www.mlit.go.jp/common/001091835.pdf

空き家の対策をしないとどうなる?

空き家の所有者となったのち、そのまま放置してしまうとどのようなデメリットがあるでしょうか。

適切な管理をしていないと固定資産税の優遇が受けられなくなる

空家等対策特措法について述べた際にお伝えした通り、管理状態が悪いままで空き家を長期に放置すると、特定空家等に指定されることがあります。まずは行政から助言・指導等がありますが、そのまま対処せずに放置を続けると行政より勧告を受けます。この勧告を受けると、建物が存在するにもかかわらず固定資産税等の住宅用地特例の対象から除外されてしまい、固定資産税が増加してしまいます(※7)。

崩壊等で大変危険!怪我をさせて損害賠償を要求されることも

空き家を定期的に換気やシロアリ駆除等をせず放置すると、徐々に建物が傷みだし倒壊の可能性がでてきます。最悪のケースですと、建物の損傷や倒壊により隣接道路の通行者や隣地住民がケガをしてしまいます。

建物の管理責任は住んでいなくても所有者にありますので、所有者はケガや損害を与えた人から治療費や修繕費、損害賠償などを請求される可能性があります。

火災の出火元になれば、さらに大きな損害賠償を請求される恐れも

長期に家を放置すると建物はもちろんですが、設備も劣化します。加えて、空気の乾燥している時期などには、火災を起こす可能性があります。また、動物などがコードをかじることで火元になることも考えられます。

出火元となってしまった場合、その出火に気づく人がいませんので、近隣の住民が気付いた頃にはすでに手遅れになってしまいます。そうなると出火元として大きな損害賠償責任を負ってしまうことにもなりかねません。

周囲に迷惑がかかるだけでなく、後々の損失の発生源になる可能性も

上記以外にも、犯罪などに利用される恐れがあります。管理が行き届いていないと、外観から容易に空き家と判断できるため、単にその空き家が空き巣に入られるだけでなく、犯罪者の拠点になったり、犯行現場になる恐れもあります。

また、同様の理由から放火の火元にも狙われやすいです。住人がいる場合に比べて発見されにくいためです。犯罪への利用や放火元となった場合、直接の責任は求められないかもしれませんが、近隣住民への迷惑は計り知れません。

また、台風や地震などの天災があったのち、きちんと管理できていないと倒壊等により、近隣に被害が及ぶ可能性があります。そうなった場合、やはり所有者の管理責任が問われてしまいます。

空き家の対策にはどんな方法が考えられる?

それではどういった対策があるでしょうか。

相続をしないで放棄する

相続財産の中に不要な空き家がある場合、相続の放棄をすれば空き家の管理から逃れられるのではと考える方は多いかと思います。たしかに、相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に対して、相続放棄の申述をすることで空き家の所有権を放棄することができます。

相続放棄をすると、自分以外に相続人がいる場合、その他の相続人が管理を始めると同時に管理責任が無くなります。
では、自分以外に相続人がいない場合はどうでしょうか。

放棄しても管理責任は元相続人にあること

自分以外に相続人がいない場合でも、相続放棄により空き家の所有権を放棄することは可能です。ただし、ここで問題となってくるのが民法第940条(※8)です。

相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

上記の条文より、相続人が相続を放棄しても次に空き家を管理する人がいない場合、引き続き管理を継続しなければなりません。そしてこの管理責任は、家庭裁判所に相続財産管理人の選任申立をして相続財産管理人に管理を引き継ぐまで続きます。完全に管理から離れたい場合は、当該申立てを行う必要があります。

なお、相続財産管理人の選任後は報酬の支払いが必要となります。空き家等の相続財産が少ない場合は報酬の予納を求められることになり、その費用は相続財産管理人の選任申立をした人が支払うこととなります。

この予納額が数十万~100万円程度と負担が大きいため、相続放棄はしたが相続財産管理人の選任申立てをせずにそのまま空き家を放置するといったケースがあり、危険な空き家が増える原因の一つとなっています。

※8 出典:e-Govウェブサイト(http://elaws.e-gov.go.jp

建物を解体して売却する

通常土地は更地のほうが売れやすいため、建物を解体して早めに土地を売却するという方法があります。特に空き家となり長く利用されていない建物は評価額の低いものが多く、また前述の相続放棄も相続財産管理人への報酬など費用が掛かることから、この選択肢を選ぶ方も多いです。

自治体によっては解体費用の援助がある場合もある

どの自治体も危険な状態の空き家の増加には頭を悩ませており、空き家の解体に補助金を支給している自治体もあります。一定の築年(昭和56年以前に建築等)が条件となっている場合が多く、また支給額も解体費用の半額や2/3というものが多いです。(※自治体により異なります。ご注意ください。)

修繕して貸し出す

空き家を修繕して、賃貸に出す方法があります。後述する空き家バンクのように地方自治体が地域振興の一環としてバックアップしているケースも多く、補助金が出る自治体もあります。

国でも空き家対策を進めている

空き家の活用・流通を促進するため、国でも空き家等の譲渡所得を控除できる特例を定めています(※9)。相続や遺贈により、被相続人のみが住んでいた家(相続発生後は空き家)を相続人が取得し、それを売却した場合、その譲渡所得を3,000万円控除するといったものです。

※9 出典:国税庁被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

空き家バンクに登録する

多くの自治体で積極的に勧められている空き家バンクとは、空き家の賃貸・売却を目的として、空き家所有者が不動産情報を自治体に提供・登録し、賃借・購入希望者との橋渡しを行う制度です。

登録された不動産情報は空き家バンク用の物件情報サイトに掲載され、県内はもちろん県外からの移住希望者もターゲットとなります。

空き家対策セミナーに参加する

自治体や不動産会社、空き家管理会社の開催している空き家対策セミナーや相談会に参加して、自分に合った利用・処分方法を考えるのもよいでしょう。自治体主催のセミナーや相談会では、司法書士や土地家屋調査士を招いて、権利関係や土地の境界問題などの相談にのってくれるケースもあります。

空き家活用の実例は?

各自治体で空き家の活用に関する補助金とその活用事例があります。岐阜県の「空き家等利活用事例集」(※10)では助成制度を利用した空き家の再生事例が豊富です。特に古い民家をその趣を活かしてリフォームし、店舗や交流施設へ転用するケースがよく見られます。

※10 出典:岐阜県 空家等利活用事例集(https://www.pref.gifu.lg.jp/kurashi/jutaku/akiyataisaku/11659/index.data/rikatsuyo_jirei.pdf

最後に

以上、空き家の増加傾向やその対策として空家等対策特措法、空き家を放置することのデメリットなどを紹介してきました。今後、特に危険を伴う「特定空家等」には、行政からより厳しいチェックが入ると思われます。

元来、日本は海外に比べて新築住宅の比重が大きく、中古住宅の活用が遅れていると言われています。相続した家も売却するでもなく活用するわけでもなく、ただなんとなく所有し続け、気が付けば利用や売却ができないほど傷んでしまっていたというケースも耳にします。

空き家譲渡所得の特別控除など空き家活用のための国のバックアップも始まりました。セミナーや相談会、事例集を参考に空き家の活用を考えてみると良いかもしれません。