全国の自治体では、使用されていない空き家を住民から募って、定住促進として移住希望者に紹介する「空き家バンク」という制度の運用が広まってきています。この制度は、地域活性化のためや人口減少や過疎化などの影響から地域で増加する空き家対策としても期待されています。

空き家バンクに掲載されている不動産は、築年数は古いものが多いですが、家賃や販売価格はかなり格安のものが多いです。今回は、空き家バンクのシステムや利用方法、また利用の際の注意点などを紹介いたします。

空き家バンクのシステムについて

様々な市町村のホームページで空き家バンクのリンクを目にします。では、そのシステムはどういったものでしょうか。

増加する空き家の活用法の模索から導入された空家バンク

人口の減少や都市部への流出により、地方で顕著になっていた空き家の増加。空家バンクもそういった地方の市町村から徐々に全国に広がっていきました。

住む人のいない空き家はそのまま放置するとすぐに傷んでしまい、いずれ倒壊の恐れなどがでてきます。そのため、空き家を活用してくれる住民の確保と、賃貸用不動産の少ない田舎への定住希望者に住居を提供しようという、一挙両得を狙った制度と言えます。

空き家バンクを通じて空き家の所有者と利用希望者を結びつける

使用しない空き家を持っていて「貸したい・売りたい」と思っている空き家所有者と、Uターンや田舎生活を送りたいので「安く家を借りたい・買いたい」という空き家利用希望者を結びつけるのが空き家バンク制度です。

空き家の所有者と利用希望者は、まず各市町村が運営している空き家バンクに登録します。登録完了後、空き家所有者は自分の所有する空き家の情報を市町村に提供すると、市町村の運営する空き家バンクサイトに掲載してもらえるようになります。

利用希望者は登録前でも空き家情報を空き家バンクサイトから閲覧することができます。気に入った空き家が見つかり、詳しい情報が欲しい場合や現地案内をしてもらいたい場合は利用者登録が必要となります。

市町村と宅建協会が共同運営を行っている

空き家バンクは、各市町村が宅地建物取引業協会(宅建協会)と協力して制度運営やサイト運営を行っているケースが多いです。空き家の現地調査や価格交渉、賃貸・売買契約などを宅建協会の会員である不動産会社が行います。特に価格交渉や賃貸・売買契約は一般人同士の契約 ということもあり、市町村は基本的には介入せず、主に宅建業者が当事者の間に立って行います。

なお価格交渉や契約については、宅建業者を介して行う方法のほかに、空き家所有者と利用希望者が直接会って行うこともできます。ただしその場合、契約トラブルや建物に欠陥があった際のやりとりなどは当事者のみで行う必要があるため、若干リスクが高いです。

なお宅建業者を介して契約する場合は、仲介手数料が必要となりますのでご注意ください。

地域活性化策としても注目されている

空き家バンクは、歴史はあるが長く使われていない空き家を、味を残したままユニークにリフォームしたり、交流会館や店舗などに再利用して賃貸・売買に出すことで、地域活性化にも寄与します。各市町村でも、種類や金額は様々ですが空き家のリフォームや整備を補助金などでバックアップしています。

地方に定住者を増やす

過疎化の進んでいる地方では、そもそも賃貸用不動産のないケースがあります。空き家バンクは、そういった田舎への定住希望者が移住したくても住む場所が見つけられないといった問題を解決してくれます。

空き家バンクで部屋を買う・借りるにはどうしたらいいか

空き家バンク利用図

空き家バンクの利用方法をご説明します。

空き家バンクの掲載物件を見て主催の自治体に問い合わせる

空き家の利用希望者は、まず各市町村が運営している空き家バンクサイトを閲覧して、掲載物件から条件にあった空き家を探します。この時点では利用申込は不要です。条件に合う空き家を見つけたら、より詳しい不動産情報を得るために、自治体に問い合わせをし、空き家バンク制度の利用申込を行います。

宅建業者に仲介に入ってもらう

各空き家には担当の宅建業者が決まっているケースが多いので、その宅建業者からより詳しい情報を提供してもらいます。現地が遠方である場合が多いので、現地に行く前に、ある程度電話などで情報収集しておくと時間や手間が省けます。

なお宅建業者を間に介さず、空き家所有者との直接交渉を希望する場合は、利用申込時に自治体の担当者にその旨を伝えておきましょう。

内覧を行い、借りるかどうかを決める

スケジュール調整をして現地の内覧を行います。この内覧は宅建業者が立ち会う場合もあれば、自治体の担当者が立ち会う場合もあります。

なお、都市部の賃貸では内覧せずに決めるケースもありますが、空き家バンクに掲載されている空き家は整備されていない、もしくは最低限の整備しかされていない場合が多かったり、立地が悪かったり、周辺環境に難のある場合があり、現地に行かないと感じ取れないことが多いので内覧は必須です。

現地に行ってしっかりと空き家の立地や設備状況、周辺環境を確認したのち、借りる、又は買うかどうかを決めます。

宅建業者の仲介を入れながら持ち主と交渉する

契約することを決めたら、次は賃料や購入価格、契約内容の交渉をします。宅建業者に仲介をお願いしている場合は、所有者との間に入って交渉の手助けをしてくれますので、相談しながら進めましょう。

なお利用申込時に直接交渉を希望している場合は、所有者と直接交渉をして賃料等の契約内容を決め、契約書を作成することになります。

地方の空き家バンクで物件を借りるメリット

通常の賃貸不動産にはないメリットとしては以下のようなものがあります。

格安家賃の物件が多い

築年数が十~数十年と古めの物件が多く、また所有者も管理に困っていることもあり、家賃や購入価格がかなり安い物件が多いのが特徴です。サイト上では2~4万円のものが多いですが、なかには1万円以下の物件もあります。

フリーランスなどで通勤の必要がない人は、地方に住むことで生活コストを抑えられる

空き家の中には、家賃・購入価格は安いがその分交通の便が悪く、通勤交通費が高くなった結果、家賃などの安さのメリットを十分に活かせない場合もあります。ですが、通勤不要なフリーランスなどの職業の場合は、家賃などの安さの恩恵を受けやすく、またその他の生活費も都市部より安いことが多いので、生活コストを抑えられます。

都心では見つからないユニークな物件がある

空き家バンクに登録される空き家は、歴史を感じさせる趣ある家から、一風変わったリフォームをした家まで様々です。また地方の家は敷地が広く、都市部よりも建ぺい率や容積率、高さなどの制限なども緩いため、バラエティに富んだ家があります。

地方創生に貢献できる

空き家バンク制度を活用している自治体は、人口減少や地域振興に力を入れていることが多く、定住希望者にも積極的に地域に関わってほしいと考えています。積極的に地域の集会などに参加して、街づくりに関わっていくと喜ばれるでしょう。

空き家に住むことで、自治体からの支援を受けられることも

定住促進を進めている各自治体では、空き家の利用者に、家の改修費用などを補助してくれるところもあります。下記はその一例です。

①空き家改修費用の補助

②既存の荷物の整理・運搬費用

③固定資産税の減額

余っている家を非常に安い価格や無料で譲り受けられることも

所有者が管理に困っていたり、立地に難がある場合、無償でもらい受けることのできる空き家もあります。

築年数がかなり古かったり、離島だったりしますので、自分の利用方法と合致するか、改修費用はいくらかかりそうかなど十分な検討は必要ですが、条件が合えば選択肢の一つにするのも良いでしょう。

空き家バンクで部屋を借りる時の注意点

たくさんのメリットがある空き家バンクですが、いくつか注意点がありますので、順に紹介していきます。

自治体の補助金を受けるときは、定住などの諸条件がある

空き家バンク利用者への自治体の補助金ですが、いくつか条件が付くことがあります。以下に主なものを挙げますが、自治体によって異なりますので、補助金の利用を前提に空き家を借りる、買う際は事前の確認が必要です。

①外の市町村からの移住者

②一定年数の居住が条件

その他、補助金の申請期間や工事期間にも制限がある場合がありますので、注意が必要です。

地域の住民との関わり合いが苦手な人には向かないことも

地方では地域の催しや集会、草刈りなど、住人同士の交流も都市部に比べて密な場合が多いです。また、空き家バンクの地域活性化などの趣旨からも、地域への積極的な参加を求められる場合があります。

人付き合いが苦手な場合は、人間関係に疲れてしまうこともあり得ます。

生活に必要なインフラが整備されているかを事前に確認する

通常の賃貸用物件だと、水道・電気・ガスなどは当然完備されていますが、空き家バンクに登録されている家の場合、必ずしもそれらが使用できるとは限りません。配管の老朽化により使用できない場合もあれば、そもそも家までそれらのインフラが来ていない場合もありますので、事前確認が必要です。

また、交通機関がなかったり、近隣に生活必需品を購入できるお店がなかったりする場合もありますので、その点も確認する必要があります。

基本的に仕事は自分で探さなくてはいけない

一部の自治体では、定住支援として仕事の斡旋をしているところもありますが、基本的には自分で仕事を探すことになります。

地方では都市部の仕事で身につけたスキルを活かせる職場がない可能性もありますので、移住前に仕事は確保しておいたほうが良いでしょう。

修繕が必要な物件も多いので、入居費用や時間がかかることも

長く管理されていない物件が多いので、改修はある程度必要だと思っておいたほうが良いでしょう。前述した通り、水道配管や電気配線についても長期間使用していない物件の場合、傷んでいる可能性がありますので、改修にかかる費用や時間は念頭に入れておく必要があります。

自治体に補助金制度がある場合は積極的に活用していきましょう。

貸し出す側も素人なので、条件や建物の状態は入念にチェック

通常の賃貸アパートなどの不動産の場合、設備や契約内容などはしっかりしているケースがほとんどです。それに対して空き家所有者は、お金をもらって家を貸し出す経験のない方がほとんどのため、電気・水道や屋内トイレなど、利用者側が当然あると思っていたものがないこともあり得ます。

また、契約を結ぶにあたって、事前に説明義務のある事項も知らない可能性がありますので、利用者側から積極的にチェックする必要があります。

間に宅建業者が入っている場合はある程度のチェックが入りますが、当事者間の直接交渉により契約する場合は、特に入念なチェックが必要です。

契約は当事者間だけではなく、必ず宅建業者の立会いを入れる

何度か触れましたが、空き家所有者と利用者で直接交渉・契約が可能です。ですが、設備の確認やきちんとした契約書の作成など、なかなか素人では難しいのが現状です。

宅建業者を介さずに契約した場合、設備の確認や契約などの不備によるトラブルについては、宅建業者はもちろんですが、自治体からも基本的には当事者間での解決を求められます。

ただでさえ新しい環境になじむために大変な時期ですので、無用なトラブルを避けるためにも専門家である宅建業者に仲介をお願いしましょう。

最後に

以上、空き家バンクのシステムやその利用方法、メリット、注意点などを紹介してきました。築年数が経っていたり、設備や立地面で不安がある反面、その家賃などの安さや自治体からの補助金などは魅力です。また購入した場合、自分好みにリフォームするのも一つの楽しみと言えます。

大切なのは、自分が空き家に求める条件と改修費用を含む予算をきちんと把握し、それに合う空き家を粘り強く探すことです。そのためには、入念な計画と何度か現地に足を運ぶ熱意が田舎暮らしを始める大事な一歩です。空き家バンクをうまく活用して、楽しみながらしっかりと準備をしましょう。