こんにちは、かつては京急空港線沿いに住んでいたライターの安齋慎平です。

私は田園都市線界隈に住んでいるのですが、地獄のような満員電車に悩まされています。国土交通省が平成28年度に調査した報告書(「東京圏における主要区間の混雑率」)によると、田園都市線の池尻大橋駅と渋谷駅の区間での混雑率は184%に達するようです。首都圏の順位では8番目に混雑する路線ですが、パナソニックが誇るレッツノートの耐強実験に使われたこともあるほど、満員電車として有名な路線なのです。

それでも田園都市線界隈に住む7つの理由

田園都市線は、よく電車が遅延します。特に朝のラッシュ時は、ほぼ毎日遅延しているのではないかと思うくらいです。電車が1本遅れると、運転間隔の調整によって後発の電車にも遅れが発生します。はじめは10分の遅れとアナウンスされていたのに、気付いたら30分も遅れていた…なんてことも。特に、渋谷~二子玉川区間は地下を走るのですが、地下区間内で電車が止まってしまうと地下に閉じ込められたような気持ちになり、圧迫感に襲われます。

しかしながら、未だに田園都市線界隈は人気。「三軒茶屋」「二子玉川」「たまプラーザ」といったエリアに住みたいと思っている人は多いことでしょう。2012年の国土交通省の資料「東京都都市圏における鉄道沿線の動向と東武伊勢崎線沿線地域の予測・分析」によれば、田園都市線は、今後も夜間人口(常住人口)や生産年齢人口の増加が見込まれているそうです。満員電車は当分、無くなりそうにないですね…。

なぜこれほど人は田園都市線界隈に住みたいと思っているのでしょうか? ここからは、田園都市線界隈に住みたいと思う7つの理由について迫って行きたいと思います。

1.自然が多い

まずは「自然が多い」というのが理由の1つです。用賀駅近くには「砧公園」という大きな公園があります。この公園内には世田谷美術館もあり、近隣住民の憩いの場になっています。2駅隣りの駒沢大学駅近くには「駒沢オリンピック記念公園」があり、こちらは1964年東京オリンピック開催時に第2会場として使われました。現在は12の体育施設をもつ総合運動場となっています。

二子玉川駅と二子新地駅は、多摩川河川敷の最寄り駅として有名。特に二子新地駅側の河川敷では、バーベキューがよく行われています。また、二子玉川ライズの東側にあるのは、世田谷区立の公園としては初の周遊式日本庭園である帰真園(きしんえん)や芝生の広場、滑り台やクライミング遊具などがある「二子玉川公園」です。このエリアはお子さんを連れて遊べる場所といえます。

梶が谷駅から中央林間駅までのエリアも自然がたくさん。車窓を見ていても感じられると思いますが、このエリアはマンションも戸建ても建物自体が大きく、全体的に都市部のような圧迫感がありません。公園も多いです。例えば青葉台駅から徒歩15分のところには、桜の名所として知られる「桜台公園」があります。ここは比較的広い公園となっており、散歩道を歩けば森林浴を楽しめそうです。また長津田駅からはこどもの国線が通っており、「こどもの国」にいくことが可能。こどもの国は1959年、皇太子殿下(現・天皇陛下)ご成婚の際に、全国から寄せられたお祝い金を政府が基金にして作られました。自然研修センターやバーベキュー場などの施設が揃っています。

2.相互直通運転や路線の接続が良好

田園都市線は半蔵門線と相互直通運転を行っています。田園都市線の終点である「渋谷」はもちろん、半蔵門線は「表参道」「永田町」「大手町」「三越前」などを通るので、買い物や通勤に便利。田園都市線の西の終着駅である中央林間駅の近くには、小田急線の中央林間駅があり小田急との乗り換えができます。

また、半蔵門線は押上駅を通っています。そのため、世田谷方面からスカイツリーに行く時に便利です。押上駅は副駅名として「スカイツリー前」という名前が付いています。また、半蔵門線は東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)と直通運転を行っており、東武日光線にも乗り入れるので、日光の方面に行くことも可能です。そのため、ちょっとした旅行に行くこともできます。2004年10月には、田園都市線長津田駅~東武伊勢崎線北千住駅間で、臨時特急スペーシアに連絡するリレー号「もみじ号」が走りました。このように、田園都市線沿線から日光に行くことができる臨時列車も過去に企画されているので、旅行会社等の情報をチェックしておくと良いでしょう。

その他、あざみ野駅でブルーラインと接続、溝の口駅で南武線と接続、二子玉川駅で大井町線と接続するなど、横浜・川崎・大井町方面にアクセスできます。大井町線からは自由が丘駅から東横線で渋谷方面、大岡山駅から目黒線で目黒方面、旗の台駅から池上線で五反田方面、大井町線から京浜東北線で品川方面に行くことができるなど、山手線各線へ接続されているので、通勤する際にも便利です。

3.多摩田園都市構想

多摩田園都市とは、川崎、横浜、町田、大和の4市にまたがる東京西南部の多摩丘陵の一部エリアで、都心から15~35kmの位置にあり、開発総面積は約5000ha、人口は約62万人(2017年3月31日時点)と、民間主体の街づくりとしては国内最大規模を誇ります。東急が行った田園調布・洗足などの高級住宅地開発のノウハウを活かし、1953年に五島慶太氏によって打ち出されました。

「田園都市」とは、イギリス人ハワードが1898年に自著にて提唱した概念。産業革命後のイギリスでは、労働者が都市で働くようになり、「人と自然の分離」が起きました。これまで農家だった人が会社員となって遠距離通勤する人が増えたり、都市部の人口増によって環境が悪化したりするなど社会問題が起きたのです。そこで急激に人口が増加した「タウン」と、人口の流出が起きた「カントリー」の2つの問題を同時に解決するために、タウンの周りをカントリーが取り囲むような都市計画を立てられました。このようにすることで、タウンの拡大を防ごうとしたのです(土地総合研究 2013年夏号 p.15「都市住⺠を活かした農づくりと農を活かした都市づくり」)。

あざみ野やたまプラーザなどのエリアは、この「田園都市」の概念を基に東急主導で計画的に開発されたエリアであり、ロンドン郊外の街並みをイメージして作られています。特にあざみ野エリアは、住宅や小中学校、小規模な店舗併用住宅などだけが建設を許された「第一種低層住居専用地域」に指定されている場所が多く、邸宅街が広がっています。さらに建物の高さを制限する「第一種高度地区」にもなっているため、高さ10~20mを超える建物を建てることができません(一部緩和条件あり)。このような厳しい制限を設けることによって、きれいで落ち着いた街並みを実現することが可能なのです。

田園都市建設予定地は、1955年当時「農地4割、山林6割」という場所でした。「中央林間」という名前にも、当時の自然豊かな場所の名残がありますね。梶が谷から鷺沼までの第一ブロック、たまプラーザ・あざみ野を中心とする第二ブロック、藤が丘・青葉台を中心とする第三ブロック、それ以降中央林間までの第四ブロックに分かれていましたが、70~80年代またたく間に開発されました。

4.田園都市線には踏切がない

実は田園都市線には踏切がありません。そのため、沿線を車で走る時に踏切によって渋滞することが無いです。1961年(昭和36年)に、踏切での事故や道路の渋滞を減らすために踏切道改良促進法という法律が公布・施行されました。各鉄道会社はこれに従ったため、田園都市線のような比較的新しい路線には踏切がほとんど無いのです。一部田園都市線にも踏切が残っていましたが、1989年に全区間の踏切が無くなりました(「TOKYU CORPORATION 2016-2017」)。踏切事故が起こらないことに加え、交通渋滞が起こることも少ないエリアとなっています。

高速道路のジャンクションもあったり(用賀JC)、沿線近くを国道246号線が走っていたりすることもあり、車での移動も便利です。余談ですが、1950年代に「東急ターンパイク」という高速道路計画がありました。これは渋谷から二子玉川を通って江ノ島まで延びる構想でしたが、結局は建設省(現・国土交通省)が許可を下ろさず(代わりに建設省は第三京浜道路構想を出す)、東急は高速道路の建設を諦めざるを得ませんでした。その代わり建設されたのが田園都市線だったというわけです。

5. 意外と探せば良い物件が眠っている

世田谷区の場合、京王線、小田急線、東急線が走っており、東西の移動は便利。しかしながら南北を移動する路線は東急世田谷線(三軒茶屋~下高井戸間)しかありません。よって南北の移動はほとんどの場合、バスを利用することになります(とはいえ電車ほど頻繁に走っているわけではないので世田谷区の移動は自転車を使うのがオススメです)。

バスでの移動ということで、物件には「バス◯分」という条件が載っていますが、駅から離れているので、マンション価格が低めに設定されています。電車の駅から離れるのは不便ですが、その分お得な物件が眠っているかもしれません。

二子新地から中央林間までの間は、世田谷区内に比べて新築・分譲一戸建て中古マンションともに安くなる傾向があります(HOME’S調べ)。終点の中央林間駅でも、渋谷までは40分程度なので通勤できなくはない距離です(実際中央林間駅周辺を歩いてみましたが、ショッピングセンターやスーパーマーケット、カフェなどが揃っており、住みやすい街という印象を受けました)。

6.南町田「第二のニコタマ」計画

南町田を第二のニコタマにするという計画があります。それが「南町田拠点創出まちづくりプロジェクト」です。東急と町田市が共同で行う再開発計画で、2017年に閉鎖されたグランベリーモールの跡地を開発します。プロジェクトは2020年開業を目指しており、商業施設には約200店ものテナントが入る予定。駅に公園と商業施設が隣接しているという立地を活かし、南町田ににぎわいと交流の促進をもたらすとしています(南町田拠点創出まちづくりプロジェクト|町田市・東急電鉄)。

南町田駅は、渋谷駅から田園都市線の急行と各駅停車を乗り換えて40分程度で着きます。また東名高速道路や国道16号線も近く、車でも電車でもアクセスしやすいのが魅力です。新築マンションも販売を開始しており、今後注目のエリアといえます。

7.さらに計画されている新路線・複々線化

「蒲蒲線」という構想があります。東急多摩川線・矢口渡駅付近から地下化し、東急蒲田地下駅、京急蒲田地下駅を通り、大鳥居駅手前で京急空港線に乗り入れる計画です(新空港線(蒲蒲線)の事業計画(案)概要 (事業計画案、事業費、費用便益比等))。東急多摩川線は東急東横線の多摩川駅から枝分かれしているので、東横線から空港に向かうルートができ、世田谷方面からでも羽田空港に向かうことができます。これなら、田園都市線から羽田空港に向かう時便利ですね。

田園都市線の複々線化(複線よりもさらに1本ずつ軌道を設けること)が計画されています。複々線にすると、特急・急行が各駅停車を追い越すことができるため、より円滑に電車を走らせることができるのです。現在計画されているのは、溝の口~鷺沼間。これが実現すれば、田園都市線の混雑が解消されるかもしれません。また肝心の二子玉川~渋谷間の複々線化も注目されています。しかしながら、溝の口~鷺沼間は住宅地であり、用地買収が容易ではありません。二子玉川~渋谷間もそもそも地下区間であり、複々線化するには膨大な資金が必要となります。実現するのは遠い未来になりそうです。

ぜひ一度、田園都市線界隈へ!

以上、田園都市線界隈に住む7つの理由について見てきました。田園都市線界隈は物価が高いというイメージがありますが、実は駅周辺から少し離れると、のどかな風景が広がっていたり昔ながらの商店街が広がっていたりするのです。「セレブの街」というイメージの強い二子玉川ですら、玉川高島屋を北に進めば懐かしい商店街の風景が残っていますし、さらに北上すると畑が広がっています。物件を探す時は、駅から少し離れたところを探してみると良いかもしれません。

田園都市線沿線は全体的に自然が多く、住みやすい雰囲気があります。少しでも興味のある方は、休日を利用して沿線を巡ってみるのも良いと思います。この記事があなたの不動産投資の一助となれば幸いです。

(安齋慎平)

【記事筆者】

安齋 慎平
安齋 慎平
1985年福島県生まれ。福島県立福島高校、東北大学経済学部卒。ライフハッカー[日本版]などのWebメディアや、企業オウンドメディアなどで執筆中。内閣府広報『Highlighting Japan』など、官公庁から依頼された記事も担当している。得意分野は「日本史(幕末~平成期)」「お笑い」など。