民泊とは、その名の通り、民家に宿泊することを指します。従来は、宿泊施設に泊まることが出来ない人に、無償で部屋を貸したり、食事を提供することもそんなに珍しいことではありませんでしたが、近年では安全確保の観点から、従来のような民泊のスタイルは少なくなっています。
その一方で、外国人観光客の増加から、観光地などでは宿泊設備が不足しているという状況が発生しており、また、少子高齢化の進展から、一般の家庭では使わない部屋が余っている状況が増えてきています。そこでビジネスとして民泊事業を行うことが2008年頃から始まりました。民泊新法は民泊事業を行うためのルールを定めた法律です。
民泊新法(住宅宿泊事業法)とは
民泊新法とは正式名を住宅宿泊事業法といい、2017年6月9日に成立しました。
これは新たな「民泊」という事業形態の宿泊提供に関する法律です。
出典:住宅宿泊事業法(http://www.mlit.go.jp/common/001212371.pdf)
民泊新法(住宅宿泊事業法)の概要
民泊新法では、これまでの旅館業法に定められている4つの宿泊形態(ホテル、旅館、簡易宿所、下宿)以外の、住宅宿泊事業について定められています。
(なお、後述しますが、国家戦略特区内の特区民泊も民泊新法の対象外となっています。)
いつから施行されるのか
民泊新法(住宅宿泊事業法)は2018年6月15日に施行されます。
すでに2017年10月27日に住宅宿泊事業法施行規則、国土交通省関係住宅宿泊事業法施行規則、が公布されています。
また、2017年12月26日には住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)も公開されており、細かい部分のルールも明らかになっています。
出典:住宅宿泊事業法施行規則
http://www.mlit.go.jp/common/001212374.pdf
出典:国土交通省関係住宅宿泊事業法施行規則
http://www.mlit.go.jp/common/001212375.pdf
出典:住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)
http://www.mlit.go.jp/common/001215784.pdf
全国的に民泊施設の運営が可能になる
これまでは旅館業法の簡易宿所の営業許可など以外で民泊を行うことは、法律的(学説・判例が対立)にはグレーの状態でした。
また、厚生労働省の立場としては、許可なく民泊を行うことは認められない、という立場でした。
そこでこの民泊新法ができたことにより、法律に則って、日本全国で民泊施設を運営することが可能になりました。
実際に許可を得ずに民泊施設を運営していたようなモグリの業者も、この法律が実施されれば淘汰されていくものと思われます。
年間180日までしか営業できない
民泊新法では、届け出た住所での営業を年間180日以内とすることが定められています。
これは、民泊は住居を宿泊施設として利用することを認めるものなので、常に宿泊施設として稼動しているものは住居とはみなされないからです。
もし180日を超えて営業を行っている場合には、旅館業法違反として罰則の対象となります。
その他の条件
旅館業法の対象はホテルや旅館ですが、民泊新法の対象は住宅です。
つまり、旅館やホテルが営業することができない住居専用地域でも民泊の営業をすることが可能です。
ただし、マンションなどの規約で民泊を禁止している場合は、民泊を営むことができません。
従来の民泊に関する法律との違い
これまでの民泊は、旅館業法の規制をクリアするような厳しい条件が課されていました。
つまり、恒久的な宿泊施設として成立するように多額の設備投資が必要だったので、一般の住宅で宿泊営業を営むことはかなり困難だったと言えます。
しかし、民泊新法では、いくつかの条件はあるものの、空き家対策と増加する外国人旅行者への対応を主眼に、これまでの民泊に対する考え方を変更したものと考えることができます。
民泊施設を展開できるエリアの拡大
従来、旅館業法では民泊施設を住居専用地域内で営業することはできませんでした。
建物の用途も旅館やホテルに限られていました。
ところが民泊新法では、条例で住居専用地域内での営業を禁じているケースを除き、住居専用地域での営業を可としています。
民泊条例とは
民泊条例には、「住宅宿泊事業法に関する条例」と「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例」(いわゆる、特区民泊条例)の2つがあります。
出典:住宅宿泊事業法に関する条例(https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/hoken/eisei/riyoubiyou/minpaku_shinpou.files/jorei.pdf)
出典:国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例(https://xn--jpr947c4pa245g.com/law/%E3%80%90%E5%A4%A7%E7%94%B0%E5%8C%BA%E3%80%91%E7%89%B9%E5%8C%BA%E6%B0%91%E6%B3%8A/#i-6)
住宅宿泊事業法に関する条例
住宅宿泊事業法に関する条例とは、各自治体が地域の特性などを考慮して住宅宿泊事業を行う地域や期間に制限を加えることを目的とした条例です。
特区民泊条例(国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例)
特区民泊条例とは国家戦略特別区域法施行令に定められているもので、外国人の宿泊に適した民泊施設における営業に関するルールを定めたものです。
外国人の利用に適していることが必要ですが、利用者は日本人でも問題はありません。
旅館業法とは
旅館業法は民泊の一形態として簡易宿所営業について定めています。
民泊新法では事業者は届出制ですが、旅館業法では許可制になっています。
規制と規制緩和の両面がある
旅館業法では客室の床面積が33㎡(収容定員が10人未満の場合には3.3㎡×宿泊者の数)以上であることが求められているなど、厳しい規制があります。
これに対して、民泊新法では、旅館業法の規制を緩和しているという部分もありますが、居室の床面積は簡易宿所と同様に宿泊者1人あたり3.3㎡以上確保する必要があり、宿泊期間の制限など、規制が厳しくなっている面もあります。
民泊を行うために
それでは実際に民泊事業を行うためにどのような点に留意する必要があるのでしょうか。
民泊事業者とは
民泊事業者(住宅宿泊事業者)とは、届出を行って民泊事業を行う者、と定義されています。
また、民泊施設の運営管理を行うのは、民泊管理事業者(住宅宿泊管理事業者)になります。
自分が自宅に住みながら民泊事業を行っている場合には、民泊事業者兼民泊宿泊管理事業者になります。
民泊事業者には「家主居住型」と「家主不在型」があります。
前者の場合は、前述したように、自宅に住みながら民泊を営んでいるので、わかりやすいタイプの事業者です。
一方で不在型で言う「不在」とはどのような状態を言うのでしょうか。
これは民泊事業者が宿泊施設にいない(不在)状況をさし、原則として1時間以内に戻ってくれば不在とはみなされないようです。
特殊な事情があっても2時間が限度とされています。
行政への届出義務
民泊事業者は民泊事業を営む旨、行政当局(都道府県知事)に届出をしなければいけません。
届出内容は、以下のものなどです。
①商号、名称、または氏名及び住所
②役員の氏名(法人の場合)
③法定代理人の氏名及び住所など(未成年の場合)
④住宅の所在地
⑤住宅宿泊管理事業者の商号など
⑥住宅の図面や登記事項証明書などの添付
⑦誓約書(欠格事由に該当しないことを誓約する書面)の提出
物件面積や設備に関する条件
民泊事業者に対しては以下のような条件が課されています。
物件の面積については、宿泊者の衛生管理の点から、厚生労働省令によって居室の広さに応じた宿泊人数が定められています。
また、非常用証明器具の設置など、火災などが発生したときの宿泊者の安全を確保するような設備を設置することが求められています。
標識の掲示義務
また、災害対策として、避難経路の掲示など、建築基準法や消防法などの規定も遵守する必要があります。
さらに民泊事業を行っている旨の標識も掲示する義務があります。
主な物件運用の目的とは
宿泊施設の運用目的としては、投資回収があげられますが、民泊事業の場合はそれ以上に文化交流の目的が大きいと考えられます。
また、休眠資産の活用といった側面も大きいと思われます。
民泊施設掲載サイトにも義務が課される
民泊を紹介する場合には違法な民泊の斡旋などは禁止されていますので、民泊施設掲載サイトにおいても、民泊事業者が適法に事業を行っているかどうかに注意を払う必要があります。
民泊新法に則った物件の不動産投資としての収益性は
休眠資産を活用するという点では、民泊に利用することで一定の収益が見込めることになります。
実際に不動産投資の観点から、民泊に利用した場合の不動産投資の収益性はどのように考えることができるのでしょうか。
幅広いエリアで展開できるので休眠施設を活用できる
前述したように、広いエリアで民泊事業を営むことが可能なので、現在稼動していない不動産(建物)を活用することができるようになります。
これまでは固定資産税や修繕費・維持費などの費用だけがかかっていた資産を収益物件として活用できる点はメリットがあります。
180日までしか営業できないので収益性が下がる
しかし、恒久的な宿泊施設と異なり、年間180日までしか民泊施設として営業することができないので、その分収益は下がると考えられます。
つまり、ホテルや旅館などの収益獲得を主目的にした事業と比較すると収益性は落ちることになってしまいます。
違法施設が減少し、法に則った施設の需要は拡大する
届出をせずに違法に民泊を営んでいると罰則もありますし、利用者にとっても宿泊設備の安全対策などが不安になるので、自然と利用者は減り、結果として違法な民泊施設は淘汰されていくことになるでしょう。
したがって、適法かつ適正な民泊施設に対する利用者の需要は増えることになりますので、民泊事業者にとっても宿泊利用者にとっても、民泊新法の運用は双方に恩恵があるものと考えられます。
周辺施設への配慮が重要となる
民泊事業で目下大きな問題となっているのが、宿泊者と近所の人たちとの関係です。
特に外国人はその土地の習慣には不慣れなこともあり、土地のルールを破っていることに気が付いていない場合もあります。
また、地元の人にとっても外国人のことがよくわからないために、必要以上にその存在に脅威を感じてしまうこともあるでしょう。
この部分を乗り越えることで国際交流が成功するのですが、そのためには民泊事業者をはじめ、民泊に携わる人々が積極的に国際交流の後押しをして、相互理解を深めるように、コミュニケーションをサポートすることが必要だと思われます。
民泊だけだと収益性が低いので+αの検討が必要
民泊を始めたけれど思ったよりも収益が低いと悩むような場合も十分考えられます。
前述したように、営業期間も限られているため、
用途地域にもよりますが、例えば飲食施設やトレーニングジムを併設するなど、民泊施設に何らかの付加価値を合わせて提供することも検討してはいかがでしょうか。
最後に
法的な整備が完了して、民泊新法はいよいよ施行を待つばかりとなっています。
日本が観光資源を有効に活用するためにも、また2020年の東京オリンピックを成功させるためにも、民泊事業を軌道にのせるかどうかは大きな鍵となると思われます。
監修:高橋 政実(ファイナンシャルプランナー)