土地の売買を検討する際によく聞く言葉で「公示地価」「実勢価格」がありますが、詳しい内容をご存じでしょうか。「公示地価」については知っている方も多いのですが、「実勢価格」については誤解されていることが多く不動産取引のプロでも本質をしっかり理解していない方もいます。

「公示地価」と「実勢価格」のどちらも、売買価格を決めるための参考資料としてとても重要な「土地の価格」です。ですが二つの価格の間には価格差があります。なぜなのでしょうか。土地取引で損をしないためにも、「公示地価」とは何なのか、「実勢価格」の本質と価格差が生じる理由を理解することは大切です。今回は売買価格を決める上で、「公示地価」と「実勢価格」、そして「二つの間に生じる価格差」をどう取り扱えばいいのかを説明します。

地価公示とは

地価公示と実勢価格の間になぜ価格差が生まれるのかを考える前に、まず地価公示とはそもそも何なのか?いつ、どこで、誰が決めていて、どんな場面で利用されるのかを説明しましょう。

地価公示の概要

地価公示は、適正な土地価格が形成されることを目的として制定された土地の価格です。日本全国に「標準地」と呼ばれる場所を設定して、国土交通省が標準地の価格を毎年発表します。地価公示は1969年に施行された「地価公示法」という法律に基づいて発表されます。

出典:地価公示法(http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=344AC0000000049&openerCode=1

ただし、地価公示を決めるための「標準地」は限られた場所にしか設定されません。公示地価を決めるために日本全国どこでも標準地が設定されるわけではないのです。

実は「地価」が公示されるエリアは法律で決まっています。このエリアのことを「公示区域」と呼びます。公示区域が定められるエリアは主に2つです。

①都市計画区域
②土地の売買取引が活発なエリア

不動産取引の価格は公示地価だけで決まるものではありません。ですが、公示地価も土地取引の重要な参考資料になります。公示地価だけでなく実勢価格なども参考にしながら、市場の需要と供給のバランスで決まります。

誰が公示地価を決めているのか?

公示地価は、国土交通省の土地鑑定委員会が決めています。過去の土地取引における売買価額や、2人以上の不動産鑑定士が行う鑑定評価なども参考にしながら決めているのです。

公示地価を決めるための標準地の選定も、国土交通省の土地鑑定委員会が行っています。標準地を選ぶ基準は、特徴的な事例や変わった形状などを避けて、より一般的な土地を選ぶことです。例えば住宅地、商業地、工業地などの土地の用途毎に、それぞれの用途の中で、大きさ、形状、周辺環境や土地の利用状況を考えて、これは標準的な土地だというものを選びます。

地価公示を算出するための標準地は、その周辺の似たような土地価格の基準であり、代表的なものになります。そのため標準地が特徴的であったり変わった性質を持っていたりする土地では、標準地としての務めを果たすことができません。例えば、ガタガタな形状の土地や著しく小さい土地など、使い勝手が極めて悪い土地を標準地に選んでしまうと、その周辺の土地の評価額を算出する時に、まったく参考にならなくなってしまいます。そういった特徴的な土地は、標準地には選ばれません。

また標準地に選ばれた土地は、周辺を代表する標準的な土地であり続けているかどうか、毎年再評価されます。その際、この土地は標準地として不適当と判断された場合は、その土地に代わって新たな標準地が設定されます。

公示地価の発表日は?

公示地価は毎年発表され、3月頃に公示されます。官報に公示地価が記載され、その記載内容は標準地の所在地と地番、土地の利用状況と形状、地積、そして価格が掲載されるのです。

公示地価の価格は、1月1日の時点での標準地の評価額であり、その価格は標準地1㎡あたりの地価を表しています。

公示地価が利用される場面とは?

公示地価が利用される場面として、主に不動産取引の売買価格を決めるための客観的な指標として用いられます。もし公示地価のような公的機関が発表する客観的指標が無ければ、不動産取引の素人である一般ユーザーはプロに騙されて、価値の低い土地を不当に高い価格で購入してしまうというようなことが起きやすくなってしまいます。そのため公示地価は行政によって公に公開され、法人や個人を問わず誰でも自由に利用することができます。

実際の利用例としては、個人で土地取引を行う際に利用することがあるでしょう。公示地価を調べれば、その土地の価格水準がどんなものか知ることができます。一方で不動産会社のようなプロが、顧客の不動産の査定を行う際に一つの判断材料としても使います。

また不動産取引といった場面だけでなく、企業が自社で保有する不動産の価格を大まか知る際にも公示地価は使えます。公示地価を利用すれば、自社で保有している土地のおおよその評価額を把握すること出来るからです。個人や企業だけでなく国や自治体などの行政も、道路拡張など公共事業の用地取得費用を算出する計算根拠として利用しています。

実勢価格とは

地価公示について説明したところで、今度は実勢価格について説明します。公示地価と実勢価格の概要と特徴を抑えた上で、次のパートで公示地価と実勢価格の価格差について考えます。

実勢価格の概要

土地取引の基準として利用されることを目的に発表される公示地価とは違い、実勢価格」は実際に不動産市場で売買が成立された価格を指します。土地取引の価格決めのお手本、教科書的な立ち位置が公示地価だとすれば、「実勢価格」はより売買の成約価格に近い土地価格になります。

土地の実勢価格と将来の取引価格の捉え方

このように書くとよく勘違いされてしまうのですが、実勢価格はこれから取引される売買の成約価格ではありません。あくまで過去に類似の取引で締結した売買価格が実勢価格なのであって、これから行われる土地取引の価格が実勢価格と同じ価格になるわけではないのです。

そもそも土地には、まったく同じ物がありません。似ているものがあったとしても、すべて違うものです。そういった意味でも、過去の類似の売買価格の取引事例を集めた実勢価格は、あくまで過去の成約価格の集合体でしかないのです。そのため、坪単価50万円の実勢価格とピンポイントで考えるよりも、48万円~52万円程度という感じで価格帯に幅を持つイメージで捉えることが、実勢価格を考える上で大切なポイントになります。

実勢価格は過去の類似の土地の取引価格の平均値でしかない

過去の類似の不動産取引事例を集めて成約価格の坪単価を比較してみると、多くの成約事例が一定の価格帯に収まります。この価格帯こそが実勢価格です。つまり実勢価格はピンポイントな成約価格を指し示めしているわけではなく、似たような不動産取引を集めて導き出した、成約価格の集合体もしくは平均値ということになります。

なぜ不動産の実勢価格は平均値的な考えをしなければいけないのか。それは不動産にはまったく同じものがなく、すべて異なる商品に値付けを行うことになるからです。

不動産以外の商品でも実勢価格という考え方があります。例えば家電量販店で売られている電化製品の「オープン価格」や、スーパーで売られている野菜や肉、魚などの生鮮食品がそれに当たります。季節によって需給が変動したり、販売店次第で同じ商品なのに売り値が変わったりします。ですがこれらの場合は実勢価格の価格帯に幅があっても、同じ商品が売られているので安いか高いかを簡単に判断することが出来ます。過去に成立した実勢価格とピンポイントに価格を比較して、得なのか損なのかをすぐに判断できるわけです。

ところが不動産の場合は同じ商品がありません。何度も言いますが、似たような取引はあっても実際には異なる商品なのです。そのため不動産の実勢価格は取引価格の平均値として捉えて、実勢価格だけを完全に信用して取引するのは損をする可能性があるということを理解しておく必要があります。あくまで参考にすべき重要な価格というスタンスで捉えることが大切です。

将来の取引価格と実勢価格に開きが出る可能性がある

不動産、土地取引の売買価格をいくらにするか。もっとも影響を与えるのが実勢価格です。しかし必ず実勢価格に準じた値付けがされて取引成立となるかといえば、そうとは限りません。なぜなら不動産売買の成約価格は、売主と買主のそれぞれの思惑の中で当事者同士が自由に交渉を行い、双方が納得した価格で決まるからです。

そのため当事者間の特別な事情が最優先されて成約となった場合は、その価格が必ずしも実勢価格に近い価格だとは限らないのです。

さきほども説明した通り、実勢価格はあくまで過去に取引された売買価格の集合体あるいは平均値であって、未来の不動産取引の成約価格をあらわしているのではないのです。

よって成約価格がいくらになりそうかを考える時に、実勢価格だけを見て判断するのは問題があります。実勢価格でおおまかな取引価格のイメージを掴むというスタンスで利用するのがベストでしょう。

実勢価格は”幅のある価格帯”として捉える事が大切

不動産の実勢価格は、過去の取引事例を集めた価格の集合体・平均値として捉えることが大切と何度も言っていますが、では実際にどのように使うのでしょうか。「平均値として捉える」と書くと、「成約価格を集めて平均値を出せばいいのか」と考えてしまうかもしれませんが、そうではありません。

例えば該当物件の周辺エリアから似たような取引事例を5つ集めたとします。それぞれの成約価格を坪単価に直すと、48万円/坪、51万円/坪、53万円/坪、49万円/坪、55万円/坪であったとします。この取引事例の平均価格は51.2万円です。

「平均値の51.2万円が実勢価格だ!!だからこれから取引する成約価格も51.2万円近辺の価格で決まるに違いない!!」こう考えるべきではないということです。正解は「実勢価格が48万円~55万円/坪だ。ということは自分が行う取引の成約価格も48万円~55万円/坪の範囲に収まる可能性が高いのか……」と考えるべきだということです。

実勢価格は土地総合情報システムで調べる

実勢価格の考え方が分かったところで、実勢価格の具体的な調べ方についても説明します。実勢価格を調べるには、国土交通省が運営している「土地総合情報システム」を利用します。

出典:国土交通省 土地・建設産業局、「土地総合情報システム(http://www.land.mlit.go.jp/webland/servlet/MainServlet

土地総合情報システムを使えば、簡単に日本全国の土地取引の実勢価格を調べることが出来ます。土地総合情報システムでは土地取引の総額や坪単価だけでなく、大まかな土地の形状、面積土地の利用目的や前面道路の幅員と種類(私道か公道か)包囲、用途地域や建蔽率と容積率まで調べることが出来ます。過去の取引事例は四半期ごと閲覧することができます。

土地総合情報システムを使っていると分かりますが、実勢価格が非常に少ない、見つからない地域があります。大都心は不動産取引が活発で実勢価格を簡単に調べることが出来ますが、地方に行くと過去の土地取引の売買事例がほとんどないという地域もあります。実勢価格が簡単に見つかる大都会では、取引価格の想定に実勢価格は大きな力を発揮します。一方で地方に行けば行くほど実勢価格が見つからないし利用できないということが、実勢価格のデメリットでもあります。

公示地価と実勢価格の間になぜ差があるのか?

公示地価と実勢価格の概要と特徴を抑えたところで、いよいよ本題の「公示地価と実勢価格の間になぜ価格差が生まれるのか」ということについて考えていきましょう。

ポイントは3つです。

①実勢価格は売主と買主のそれぞれの事情で決まる

②土地価格の変化への対応が、公示地価は実勢価格よりも遅れてしまう

③公示地価の標準地が特徴的だったために価格差が生まれてしまうケース、または買主の土地購入後の利用目的によって公示地価の考え方とは違う評価方法で土地価格が決まるケース

売主と買主のそれぞれの事情で決まる実勢価格

「実勢価格と将来の取引価格には価格差が出る。その理由は、実勢価格は売主と買主の個別の事情が反映されるため、一定の価格帯から外れることがあるからだ」

これは「土地の実勢価格と将来の取引価格の捉え方」の項目で説明した内容です。実はこの「売主と買主の個別の事情」が、公示地価と実勢価格の価格差を生む要因にもなります。たとえば地上げです。該当地の周辺の土地をまとめて地上げする場合、相場よりも高値で買収することもあります。こういった当事者の特殊な事情による取引事例も実勢価格には含まれるので、より公示地価と価格差が生まれます。

また公示地価は不動産鑑定士を中心に客観的な資料をもとに公的機関が発表する基準となる土地価格ですが、実勢価格はそれぞれの不動産業者が各々の視点で査定を行うので、ある程度バラつきが生まれます。公示地価と実勢価格の間に価格差が生まれる要因は複雑で、これだと簡単に言うことはできませんが、上記のようなケースが複雑に絡み合って価格差が生まれているのだと理解しておいてください。

実勢価格よりも遅れる公示地価

土地の売買価格はその時その瞬間で決まります。実勢価格は過去の取引事例を常に取り込んで更新されていきます。市場の価格変化を柔軟に吸収して反映するのが実勢価格なのです。

一方で公示地価はその年の1月1日時点の価格で、次の年の1月1日まで更新されません。つまり1年間の価格変化に対応できないのが公示地価です。このことが「公示地価は実勢価格よりも市況の変化への対応が遅れる」と言われる理由です。

公示地価と実勢価格が大きく異なるケースとは?

さきほど紹介した地上げのケースも価格差が大きくなる要因の一つですが、その他にもあります。たとえば公示地価の標準地の形状や大きさです。標準地は「標準的な土地」を選ぶことが目的とされているのですが、中には土地の面積が極端に小さかったり形状がいびつだったりするものもあります。こういった土地は、その土地に建てられる建築物の大きさを決める建蔽率と容積率をうまく消化することが出来ず、実勢価格では評価額が低くなって公示地価との乖離が大きくなるケースがあります。

また買主の土地購入後の利用目的によって、公示地価の考え方とは違う評価方法で土地価格が決まるケースもあります。たとえば分譲マンション用地やオフィスビル・商業施設用地です。分譲マンションの購入価格は、マンションデベロッパーが一戸当たりの販売価格から逆算して土地の購入予算が決められます。また都心部の商業地に建設されるオフィスビルや複合商業施設などは、収益還元法によって土地の評価額を算出して取引価格が決められたりします。

こういったケースでは、周辺の土地の取引価格がいくらだという判断で土地の価格が決められるのではなく、その土地に建つ建築物の販売価格や得られる収益から利回りを計算して土地価格が逆算されるのです。そのため地価公示の価格と大きな開きが出来ることもあります。

公示地価の他にもある土地の価格まとめ

土地の評価額には公示地価や実勢価格の他にも、利用目的によって評価者と評価方法が違う価格が存在します。同じ土地の価格評価でも、使い道によって評価額が変わるのです。最後に公示地価と実勢価格以外の土地の評価額についてまとめておきましょう。

路線価(相続税評価額)とは

路線価(相続税路線価)は、国税庁から毎年7月初旬に発表される土地の評価価格です。路線価には相続税路線価と、後で紹介する固定資産税路線価の二つがあります。一般的に路線価と言う場合には、この相続税路線価のことを指します。

相続税路線価の利用目的は、相続税と贈与税の算定のためです。土地の前面道路に1㎡当たりの土地価格を設定し、この単価に土地面積と各種補正率を掛け合わせることで土地の評価額を導き出します。

路線価と公示地価の関係性

相続税路線価の価格は、地価公示価格のおよそ8割を目安に設定されています。なぜ地価公示価格よりも2割安く設定されているかと言うと、税額の算定の際の安全性を考慮しているからです。

相続税路線価は毎年1月1日時点の土地の評価額になります。この価格を1年間に渡って相続税と贈与税の算定根拠として使います。ですが1年間の間に市場価格が大幅に下落してしまった場合、相続税路線価よりも売買価格が低くなってしまう可能性もあります。そうなると相続税の税金が重くのしかかることになってしまいます。そういった事態を避けるためにも、ある程度の土地価格の下落に対する安全性を考慮して2割ほど低い評価額に設定されているのです。

公示地価よりさらに実勢価格から遅れる路線価

同じ1月1日時点の土地評価額にも関わらず発表日が公示地価では3月なのに対し、相続税路線価は7月にまでずれ込みますそのため市況の価格動向に対して、公示地価よりも反応がさらに遅れることになるのです。

都道府県地価調査とは

都道府県地価調査は、都道府県知事が毎年9月に発表する土地の評価額です。その年の7月1日時点の土地の評価額になります。地価公示と比較すると、都道府県地価調査はちょうど地価公示の評価日から半年後の地価を評価しています。つまり地価公示の発表後の土地価格の変動を補完する役割も受け持っています。

また地価公示の標準地が主に都市計画区域内に設定されているのに対し、都道府県地価調査は都市計画区域外のエリアも評価対象に含まれています。地価公示価格を参考に出来ないエリアでは、都道府県地価調査を調べるのがよいでしょう。

固定資産税評価額とは

固定資産税評価額は、固定資産税の算定基準となる土地の評価額のことで、各市町村が決定する土地の価格のことです。固定資産税評価額はその年の1月1日の土地の価格を評価しています。

固定資産税の計算以外にも、登録免許税や不動産取得税、都市計画税の算定根拠にも利用されます。固定資産税評価額の算定には、固定資産税路線価を用います。さきほど説明した相続税路線価と混同しないように気を付けてください。

毎年評価額が見直される相続税路線価とは違い、固定資産税路線価の見直しは3年毎です。ただし土地価格が大きく下落した時は3年を待たずに価格の見直しが行われます。また公示地価の8割を目安に設定される相続税路線価ですが、固定資産税路線価ではさらに低い7割を目安に設定されます。

最後に

今回は地価公示と実勢価格について、そして二つの価格の間になぜ価格差が生じるのかを解説しました。地価公示と実勢価格、そして二つの価格差について理解するポイントは、以下の3つです。

①地価公示の概要

②単純に成約価格だと誤解されやすい実勢価格の本当の意味

③地価公示と実勢価格に生じる価格差を理解する3つの視点

この3つのポイントを抑えることが出来れば、分かりづらい地価公示と実勢価格の価格差についてのより理解が進むのではないでしょうか。地価公示と実勢価格の本質、二つの間に生じる価格差について理解は不動産取引において、とても大切な知識になります。今回説明した内容を、「いくらで売買すれば適正なのか」を考える上で、お役立て頂ければ幸いです。

監修:小林 弘司(不動産コンサルタント)