不動産の売買や相続の問題が差し迫った時に必要になる路線価の知識。ですが普段馴染みのない方にとって、路線価図の見方や計算方法を理解することは難しいものです。そこで今回は路線価(相続税路線価)について詳しく掘り下げて解説していきます。この記事を最後までお読みいただき、そもそも路線価とは何なのか?路線価図の見方や路線価方式の計算方法についてのご理解の手助けになれば幸いです。

路線価(相続税路線価)とは?

路線価には「相続税路線価」「固定資産税路線価」の2種類あります。一般的に「路線価」というと、「相続税路線価」のことを指します。ここでは「相続税路線価」について取り上げます。

路線価は誰が何の目的で利用するのか?

相続税路線価は、相続税の税額を算定するために使う土地の価格です。実際に土地を売買していくらで売れるのかということを、いちいち調べるわけにはいきません。そこで相続税の算定根拠となる価格を道路に設定しました。

これが相続税路線価です。道路に設定された路線価と土地の面積を掛け合わせ、さらに土地の形状や道路付けによって補正を加えて相続税評価額を算出します。つまり土地や借地権に関してはこの相続税路線価をもとに、相続税や贈与税を計算することになります。

路線価が7月発表の理由とは?

相続税路線価は毎年7月1日に、国税庁から発表されます。3年ごとに見直しの固定資産税路線価とはちがい、相続税路線価は毎年見直しが行われます。相続税路線価は7月1日に発表されますが、この評価額自体はその年の1月1日時点の土地の評価額になります。つまりタイムラグが6ヶ月あるということです。全国の道路の路線価を計測して、それらの集計作業を行うには時間がかかるため、路線価の発表が7月までズレこむのです。

また申告期限の問題からも、おそくとも7月には発表しておく必要があると考えられます。というのもその年の1月に被相続人が亡くなった場合、相続税の申告期限が10月になるからです。相続税の計算に時間が必要なことを考えると、やはり7月には路線価を発表しておく必要があると考えられます。

路線価はどこで確認できる?

路線価は国税庁のHPで調べることができます。また国税庁のHP以外にも、相続税路線価公定資産税路線価公示地価都道府県地価調査価格など4つの土地の評価額をまとめて検索できる全国地価マップで使うのも便利です。

ネットを使って調べる以外にも、直接税務署まで出向いて調べることもできます。受付で「路線価を調べたいので、路線価図を見せて欲しい」と依頼すれば、無料で閲覧することができます。ただしそれぞれの税務署に設置されている路線価図は、その国税局管内のものに限ります。管轄外のエリアの路線価を確認するなら、ネットで検索するのが便利です。

出典:国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」(http://www.rosenka.nta.go.jp/index.htm)
出典:一般財団法人資産評価システム研究センター、全国地価マップ(https://www.chikamap.jp/chikamap/Portal?mid=216)

路線価の決め方は?

路線価の決める際には「不動産鑑定士」という国家資格を持つ専門家が、その土地の持つ収益性を分析して評価を行います。不動産鑑定士が土地の評価を行う際、昨年度の路線価や直近の売買事例などをもとに鑑定評価を行います。またその土地の周辺の都市計画情報なども参考にしたりもします。

実際の売買であれば、需要と供給で価格が決まるので公平感がありますが、路線価のように行政が発表する価格に公平感を持たせるためには、専門家の助言は必要不可欠なのです。不動産鑑定士や精通者の意見、直近の売買事例や地価公示価格もとに、最終的に国税局長が決めた価格が相続税路線価となります。相続税路線価は地価公示価格のおよそ8割程度を目安に決定されます。

路線価の見方や計算方法のポイント

相続税路線価の概要を掴んだところで、今度は実際に路線価を調べる時のポイントや計算方法について見て行きましょう。ここで紹介する計算方法は前面道路に路線価が設定されている場合に用いる「路線価方式」という計算方法です。路線価の定められていない地域で用いる計算方法「倍率方式」については最後に説明します。

路線価図の見方

路線価図の見方のポイントは6つあります。

調べたい年度路線価図の年度が一致しているか、必ず確認します。

目的の土地が路線価図上のどこにあるか探し出します。

③目的の土地が面している道路を確認します。

④道路に書かれている英数字付きの数字部分が路線価アルファベットは借地権割合です。
※借地権割合についてはこのあと説明します。

⑤路線価を表す数字は1㎡あたりの価格を千円単位で表しています。たとえば道路に350Bと記載されていた場合、1㎡あたりの路線価が350,000円ということになります。

⑥道路によっては数字とアルファベットが記号で囲まれています。これは地区の種類と地区・借地権割合が適用される範囲を指示したものです。記号の種類は路線価図の上部に記載されています。

路線価の計算に必要な借地権割合とは

借地権は地主から借りた土地の上に、建物を建てても良いという権利です。この借地権は「借地借家法」で売却や譲渡ができる権利として法的に認められています。つまり借地権が設定された土地は、「建物の所有者の借地権」と「地主の土地の所有権」というふたつの権利がひとつの土地に設定されていることになります。

借地権が設定された土地は、土地の所有者が自由に土地を使うことが出来ないため、借地権のない土地と比べて資産価値が低いと判断されます。そこで本来の土地の価値に対して、借地権の価値がどれくらい占めているのかを表す指標が「借地権割合」になのです。「借地権割合」は、A90%・B80%・C70%・D60%・E50%・F40%・G30%です。

上記の図を例にとって計算してみましょう。

路線価1000=1000千円=1,000,000円
※ここでは理解しやすくするため、奥行価格補正率などは無視します。

借地権が設定されていない場合の評価額は
1,000,000円×100㎡=1億円です。

もし借地権評価だとすると、借地権割合がC=70%で設定されているので、
1億円×70%=7,000万円となります。

逆に底地としてこの土地を所有していたとすると、この土地の価値は借地権が設定されたことによって、1億円ではなく、底地の3,000万円ということになります。

路線価の計算方法について

土地の評価額は、以下の2段階で計算します。

①路線価 × 奥行価格補正率 = 1㎡あたりの評価額

②1㎡あたりの評価額 × 土地の面積 = 土地の評価額

奥行価格補正率は土地の奥行の長さによって変わる「土地の使い勝手」を考慮して、資産価値を調整するための補正率です。たとえば前面道路から奥行が極端に短い土地や長い土地は、建物を建てずらく使い勝手もよくありません。そのような土地は奥行価格補正率によって資産価値を下げられるのです。

奥行価格補正率は国税庁のHPに公開されています。

出典:国税庁、奥行価格補正率表(昭45直資3-13・平3課評2-4外・平18課評2-27外改正)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka/02/07.htm

2以上の道路に面した場合は?

たとえば土地が正面だけでなく、裏面も道路に面している場合の評価額はどのように計算するのでしょうか。この場合は以下の3ステップで計算します。

①正面道路の路線価 × 奥行価格補正率 = A

②裏面道路の路線価 × 奥行価格補正率 × 二方路線影響加算率 = B

この際、土地に接する2つ道路のどちらを正面道路とするのか決めなければなりません。
2つの道路の「路線価×奥行価格補正率」を計算して、大きい方を正面道路とします。

③(A + B) × 土地の面積 = 2つの道路に面した土地の評価額

「二方路線影響加算率」も先ほど紹介した国税庁の奥行価格補正率表のページに記載されています。

路線価と混同しやすい土地の価格まとめ

国税庁が設定する相続税路線価以外にも、他の公的機関が調査・設定する土地の評価額があります。同じ土地でも、評価する機関や調査目的の違いによって評価額が変わるということです。ここでは路線価以外の土地の価格についてまとめました。

地価公示価格とは

国土交通省が毎年3月に発表する土地の価格です。その年の1月1日時点の土地の価格を評価します。「地価公示価格」という呼び方以外にも、「公示地価」「公示地価価格」などとも呼ばれます。

地価公示価格は国土交通省の土地鑑定委員会によって設定された、標準地1㎡あたりの土地価格を表しています。もともとは公共事業用地の取得費用を算定するための基準として使われていました。ですがその性質上、現在は一般の土地取引の価格水準を指し示すものとして取り扱われます。

土地の取引価格は最終的にはマーケットの需給バランスの影響を大きく受けて決まるものですが、地価公示価格は大変重要な指標となります。土地の適正な取引価格がいくらなのかを客観的に判断する材料として使えるからです。

公示地価から路線価を予想できる

地価公示価格も相続税路線価も同じ1月1日時点の土地の評価額ですが、発表時期が違います。地価公示価格が毎年3月に発表されるのに対し、相続税路線価の発表は7月までずれこみます。

実は3月に発表された地価公示価格から、その年の相続税路線価の価格をある程度予測することができるのです。というのも相続税路線価の価格は、地価公示価格のおよそ8割を目安に設定されます。つまり3月に発表された地価公示価格に0.8を掛ければ、おおよその相続税路線価の価格を予想することができるのです。

路線価と地価公示価格の関係性

地価公示価格と同様に、相続税路線価も調査対象となる標準地を定めます。地価公示価格や都道府県地価調査価格の標準地を利用することもあれば、それ以外にも相続税路線価独自の調査地点も定めます。また路線価の価格決定を行う際には、地価公示価格と同じように過去の売買事例や不動産鑑定士の鑑定評価などを参考に、公示地価の価格も分析資料として加えて検討が行われます。

このようにして相続税路線価は、地価公示価格のおよそ8割程度を目安に設定されます。ところで相続税路線価が、地価公示価格の8割程度に設定されるのはなぜなのでしょうか。これには相続税路線価の価格が1月1日時点のものであることと深く関係しています。

というのも1月1日に設定された相続税路線価は、その後1年間にわたって変わることがありません。ですが相続は1年間を通して発生します。仮に相続の発生時期が10月だったとしても1月1日の評価額を使うわけです。もし1年間の途中で土地価格が暴落したとしたら、10月時点の実勢価格よりも相続税評価額の方が高くなるリスクがあります。

そのため相続税評価額が高くなるリスクを緩和して安全性を高めるために、相続税路線価を地価公示価格の8割程度に下げて設定しているのです。

基準地標準価格(都道府県基準地標準価格)とは

都道府県基準地標準価格は、調査目的や性質が公示地価とよく似ています。土地の評価方法などもほぼ同じです。「都道府県地価調査」や「基準地価」とも呼ばれます。

基準地標準価格と公示地価の違いは主にふたつです。ひとつめは実施する機関がちがうこと。公示地価は国土交通省土地鑑定委員会が調査を実施するのに対し、基準地標準価格の調査は都道府県が実施します。もうひとつは公示地価が1月1日時点の土地の評価額なのに対し、基準地標準価格は7月1日時点の評価額になります。公示地価の発表が毎年3月なのに対し、基準地標準価格の発表は9月です。

固定資産税評価額とは

固定資産税評価額は、市町村が固定資産税の徴収のために利用する評価額です。その年の1月1日時点で、固定資産課税台帳に登録されている人に課税されます。かりに1年間の途中で土地を売却して所有者が変わっても、1月1日時点の旧所有者に固定資産税の納税義務が課せられます。

固定資産税評価額は地価公示価格の7割を目安に設定されます。なぜ地価公示価格の7割に設定されるか。固定資産税評価は大量に一括評価されるので、評価額の安全性を鑑みて慎重な評価をするからです。

実勢価格とは

実勢価格は、実際に不動産が取引される売買価格のことです。つまり不動産市場の需要と供給のバランスで成り立ち、売り手と買い手の間で「この価格で売る、その価格で買う」という合意が成り立った価格です。

よく勘違いされるのが、広告に掲載されている販売価格を実勢価格だと思うことです。販売価格は売主の希望価格であって、実勢価格ではありません。実勢価格はあくまで、売主と買主の双方が合意して取引きした価格です。売主の希望価格の算定根拠や、買主側が販売価格が妥当かどうか判断するために、取引対象の土地の周辺売買事例や公的機関が発表する評価額(公示地価や都道府県地価調査、相続税路線価、固定資産税評価額など)を利用します。

路線価の取扱いに関する注意点

ここでは不動産取引における路線価の取扱いで、よくある勘違いや注意点についてまとめておきます。

路線価が実勢価格より高いこともある

とくに注意が必要なのは、路線価と実勢価格の逆転現象です。一般的に路線価は実勢価格よりも低く設定されます。そのため相続税対策として資産を現金で保有するよりも不動産で保有するほうが有効だと考えられるのですが、路線価と実勢価格が逆転した場合はこの考えが成り立ちません。

路線価は実勢価格との逆転現象リスクを回避するために、地価公示価格の8割を目安に設定されます。ですがリスク回避のために設定された2割引きのバッファ以上に土地価格が下落した場合は、価格の逆転現象が起きてしまうのです。路線価がいつでも実勢価格より低いわけではないということには、注意が必要です。

土地の取引価格は路線価だけで決まらない

土地の取引価格を決めるのに路線価を参照することもあると思います。ですが取引価格(実勢価格)は、路線価だけで決まるものではありません。対象となる不動産の収益性や市場の需給バランス、過去の取引事例などをもとに、公的機関の評価額も参考にしながら総合判断で決まるものです。

路線価をはじめとする公的機関の評価額は調べればすぐに分かりますが、不動産の収益性の評価や市場動向を素人が判断するのは非常に難しいです。同じ道路に面していて路線価が同じ土地だったとしても、土地の形状や面積、周辺環境などで実勢価格には違いが出てきます。

正な取引価格がいくらぐらいになりそうなのかを知りたければ、やはり仲介業者や不動産鑑定士などの専門家に相談するのが良いでしょう。

路線価が定められていない場合の対処法は?

路線価はすべての道路に定められているわけではありません。路線価が定められていない地域もあるのです。その場合、土地の相続税評価額をどのように計算するのでしょうか。

そこで用いられるのが「倍率方式」という計算方法です。計算式は以下のようになります。

固定資産税評価額 × 倍率 = 倍率方式の評価額

路線価の設定されていない地域でも、地元の役所が固定資産税を課税するために固定資産税評価額は必ず計算されています。その固定資産税評価額に一定の倍率を掛けることで相続税評価額とする計算方式です。

倍率については国税庁のHPに記載されている評価倍率表で確認することが出来ます。

出典:国税庁、「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」(http://www.rosenka.nta.go.jp/index.htm

最後に

路線価を理解するポイントは大きく5つあります。

①路線価はだれが何のために利用する評価額で、いつ発表されるのか
②路線価の確認方法
③路線価図の見方
④路線価方式での計算方法
⑤相続税路線価と地価公示価格との関係性

今回はこの5つのポイントを分かりやすく説明しました。直近でマイホームの購入や不動産の売買、相続問題が差し迫っているという人にとって、路線価についての知識はとても大切です。今回の内容をぜひ役立ててください。

監修:添田 裕美(税理士)