全国で約 820 万戸…これが何の数字かご存知でしょうか。新築住宅着工数?いいえ、これは日本における空き家の戸数です。これが空き家率13%超の衝撃的な現状です。空き家問題の背景には顕在化して久しい少子高齢化や核家族化、新築住宅に傾斜した税制や根強い新築志向などの要因が指摘されていますが、放置状態にあった空き家対策に変化も見られます。

出典:空家等対策の推進に関する特別措置法の概要(http://www.mlit.go.jp/common/001080534.pdf

空家を所有することになったら管理はしなくてはいけないの?

老齢の両親が老人ホーム等に入居した、親族から家屋を相続した。投資物件として新たに購入したなど、空き家を取得するに至った理由はさまざまあるでしょう。そうして取得した空き家は何らかの利用方法や売買などが決まるまで放置しておいても良いのでしょうか。

所有者には空き家管理の義務がある

目的は何であれ、空き家を所有したら適切に管理する義務があります。倒壊の危険がある老朽化した家屋、荒廃地を放置状態にしておくことは現実的な危険があるというだけではなく、活力ある経済発展のためにも大きな足かせとなります。限りある不動産という資産を有効に活用していくためにも、所有者による適切な管理はより求められていくでしょう。

空き家同様、問題視されているのが所有者不明の家屋や荒廃地ですが、これに対しても政府や自治体は手をこまねいているわけではありません。所有者不明という事態を回避するべく相続登記の義務化が俎上に載っている他、所有者を特定するための施策、さらには所有と切り離しての利用も現実のものとなっています。

このように相続登記していないから関係ないと言えた時代から、社会は急速に変化しつつあります。登記の有無に関わらず、空き家を放置しておいたことが原因で事故や事件が起きた場合には、関係者は責任を問われます。近年、倒壊の危険がある空き家に対して行政が是正を勧告し、改善が見られない場合には強制的に解体処分することが可能になりました。空き家を管理せずに放置することが難しい時代に突入している証です。ではこのような時代に、どうしたらより適切に空き家を管理していくことができるのでしょうか。

空家を管理しないと劣化が早い

人が住まない建物は傷みや劣化が急速に進みます。異常箇所の早期発見と適切なメンテナンスが必要不可欠ですが、そのためにも最低限、定期的に人の目が入る必要があります。屋根や外壁の状態、柱や床下の木部の異常の有無など、チェックすべき箇所は広範囲に渡ります。また湿気が溜まりやすくなるので空気の入れ替えなども重要です。

不法侵入者が発生する恐れも

人の気配のない荒廃した空き家は、犯罪の温床となる可能性があります。侵入が容易だと知られれば、大切な資産を失う危険があるというだけではなく、犯罪に利用される事態になればダメージも計り知れないものとなります。そうならないためにも放置していないと示すこと、具体的な防犯対策やシステムの構築は必要不可欠です。

近隣の家にも迷惑がかかる

いつ外壁が落ちてくるか分からなかったり、草木や樹木が伸び放題の空き家があると近隣住民に危険が及ぶというだけではなく、安心安全な生活を脅かすものとなります。放置空き家だと知られればゴミを投棄されてしまうこともあり、衛生上好ましいとも言えません。空き家を管理せずに放置しておくことは、周囲を不安や危険に晒しているのと同じです。

火災保険に加入をしておかないと火災時に多大な損害の可能性も

このように空き家を放置状態にしておくことの危険性は小さくはありませんが、放置しておいたために放火された場合にはさらに家や資産を失う危険があります。それだけならまだしも、延焼した場合には賠償責任を負うことも予想されます。そんな事態を避けるために、火災保険の加入を選択肢として検討してみましょう。空き家の状態や利用状況によっては条件が付くこともありますが、万が一を念頭に準備しておきたいところです。

空き家を自己管理するには

それでは空き家の管理を適切に行うには、どうしたら良いのでしょうか。まず確認しておきたいのが家屋の劣化具合を調査することです。屋根や外壁は目視で確認し、不安な場合には専門家の力を借りることも検討しましょう。屋根外壁は家屋を風雨から守り、快適な生活を送るための要となる重要な部分です。ここに破損や不具合があると雨漏りを引き起こし、その修理費用は莫大なものになる可能性があります。最悪の場合には、居住不可能になることもあるので早い段階で修理・修繕に着手するなどの対策が必要です。

屋内の柱や壁、床のチェックも重要です。材質にもよりますが壁のクロスが剥がれていないか、床が沈んだり浮いたりしないか。水漏れの形跡はないかなど、チェックしておきたい項目は多岐に渡ります。事前に図面が手に入るのならば、手元に置いておかしなところがないか併せて確認したいところです。また建物の築年数によっては、新耐震基準に満たない可能性があるので、専門家のチェックがあると安心です。

定期的に巡回する

家屋の異常や不具合を発見するために、定期的な巡回はとても重要になってきます。定期的にチェックしていればわずかな異変や変化に気が付くものですし、放置していないというアピールにもなります。早期発見は素早い対処につながり、空き家という資産を守るための重要なポイントとなります。

草むしりや掃除、ゴミ出しも必要

巡回の際には庭の樹木の手入れや草むしりも欠かせません。樹木の剪定や草むしりは死角をなくし、虫などの繁殖を防ぎます。またゴミを放置しておくと、いつの間にかゴミ屋敷にされてしまう危険があります。面倒かもしれませんが、空き家と言えど普通の住宅同様のケアが必要不可欠なのです。

汚れがつかないようなハウスクリーニングも

巡回の際に寝泊まりしたり、賃貸や売買が前提ならハウスクリーニングを入れるのも選択肢に挙げられます。家の汚れには素人では除去が難しいものも多く、プロの力で一度リセットすると気持ち良く使えます。それなりに費用はかかりますが、ハウスクリーニングで専門家の目が入れば建物の異常箇所の発見につながる可能性もあるので、利用する価値はあるでしょう。最近は床に汚れが付きにくくするコーティング剤もありますので、こちらも検討しておきたいところです。

場合によっては害虫駆除も必要

ハウスクリーニングと共に検討したいのが害虫の駆除です。空き家は害虫にとって好ましい環境のため、いつの間にか害虫の温床になりかねず、それを放置しておくことは気持ちの良いものではありません。駆除に使用する薬剤はホームセンターなどで購入可能ですが、白アリなどの場合には専門業者の力を借りる方が早くて確実です。その際には床下の状況をモニタリングさせてもらう、写真撮影してもらうなどすると、状況を正解に把握することにつながります。

管理費や修繕費用は馬鹿にならない

このように空き家と言えど、その管理にかかる費用は決して小さくはありません。巡回のための交通費、費やす時間や労力を考えると大きな負担とも言えます。最低限のメンテナンスでさえこうですから、異常箇所の修理やリフォームまで考慮すると費用は膨れ上がる一方です。

こうした費用以外にも固定資産税や都市計画税などの税金が毎年かかる他、取得時には1回のみ不動産取得税がかかってきます。建物が建っている場合の税率は更地に比較して軽減されていますが、毎年支払う必要があることを考えると税金も小さくはない負担です。
防犯上の管理も必要

この他、火災保険料、防犯対策として警備システムの設置やサービス利用料なども必要です。防犯対策については、自分のニーズと照らし合わせて必要なサービスを選択すると良いでしょう。

空き家の管理は他人に任せられる?


空き家の管理を自分で行うのは大変ですね。管理を他の人に任せることはできるのでしょうか。

空き家管理サービスが増えている

空き家の増加と軌を一にするように、さまざまな空き家管理を提供する企業も増えています。サービス内容も定期的な巡回を行うものから、本格的なリノベーションを施して利用者を募るものまで、豊富に登場してきています。遠方に生活の基盤がある場合や多忙で自己管理が難しい場合などには大変便利ですし、内容もオプションなどで選択しやすいようになっています。

管理サービスの内容とは

外部の巡回サービス

建物の外部を巡回して、異常箇所や変化をチェックしてくれる基本的なサービスです。目視による確認がメインとなりますが、人が侵入した形跡がないか、破損箇所がないかなど、状況を一通り把握するには十分なサービスです。

内部+外部の巡回サービス

外部の巡回と共に、建物内部もチェックしてもらうことが可能なサービスです。外からだけでは判別できない建物内部の状況を確認することで傷み具合の把握ができ、通水や定期的な換気を行うことで空き家を守ることにもつながります。

空き家活用サービス

こうしたメニュー以外にも、空き家に残された家財道具の整理や処分をしてくるサービスや、リフォームやリノベーションにまで関与して空き家を再生し、新たな価値を生み出すサービスもあります。後者の場合には再生した空き家の貸し出しや売買がセットで提供されることもあり、手放すことが前提であるのなら有効な手段となるでしょう。

管理費用の相場は?

では空き家の管理を依頼すると、どの程度の費用がかかるのでしょうか。管理内容や企業によってもバラつきがありますが、月額数千円から数万円というところが順当なところでしょう。また、あるサービスが一方ではパッケージに含まれるが、他方ではオプションになっているなどの場合もあるので、自分の管理ニーズと提供されるサービスをよく検討する必要があります。

戸建てだけではなくマンションも任せられる

このような空き家管理サービスは、戸建て住宅に限らずマンションでも受けることが可能です。マンションの場合には草むしりなどの作業の代わりに、郵便物の確認や転送、建物内部の設備のチェック、空気の入れ替えなどがメインで提供されることになります。

レポートを毎月送ってもらえるサービスも

空き家管理のメニューとして、巡回によるチェックの結果をレポートしてくれるサービスもあります。異常箇所や修理が必要だと思われる部分を写真撮影してくれる場合もあり、文字だけでは分かりづらい現状を把握するのに役立ちます。レポートや写真による報告はきちんと管理がなされているという証でもありますから、大いに活用したいところです。

プロに任せたほうが手間もかからず修繕費用も委託費に含まれる

このように空き家の管理には時間も手間もかかります。遠方に居住している、近いけれど仕事や家事を抱えての管理となると、現実的に厳しいものがあるでしょう。そんな場合には、思い切ってプロに任せてみることも選択肢となるはずです。空き家の管理が義務とはいえ、第一に優先されるべきは自分たちの快適な生活であるはずです。プロの目が入れば異常も見つけやすくなります。修理などに要する費用も管理委託費に含まれます。

【空き家の活用も考えよう】

空き家のままではなく、上手に活用する方法はあるのでしょうか。空き家の活用方法についてみていきましょう。

空き家を持っているだけでも税金が発生する

先にも述べたように、空き家の管理を行うだけでは費用が発生するばかりです。こうした空き家は所有しているだけでも税金などの費用がかかりますが、上手に活用する道を探ることで空き家から収入を得ることも可能になります。もちろん立地条件やリノベーションなどの初期費用が発生する場合もありますが、眠らせておくだけでは何も生まない資産が価値を生み出す資産へと変わる可能性があるのです。

貸し出すことで収入を得る

まず手軽に取り組めるのが賃貸に出すことです。築年数や劣化具合によってかかる

費用は変動しますが、賃貸のニーズがあるエリアなら選択肢として検討する価値はあるでしょう。最近は特色のある古民家風カフェなど、古民家風に対するニーズも強いので、築年数が古いからと諦めてしまうのは勿体ない話です。

居住用賃貸にする

また賃貸ニーズが見込めるエリア、周辺に人口が多いエリアなら居住用の賃貸として活用するという道もあります。この場合も設備投資やリノベーションなどの費用が必要となる可能性は大いにあります。しかし毎月確実に家賃収入が入る魅力は大きいので、シミュレーションしてみる価値はあるでしょう。しかし一方で、空室リスクがあるということも踏まえておく必要があります。

レンタルスペースにする

空き家という空間をレンタルする手もあります。時間貸しや、宿泊も可能な民泊サービスとして提供するなど、レンタル手法もさまざまです。最近はこうした利用方法も増えており、どちらかと言えば「古き良き日本の家屋」「おしゃれな洋館」など、特色のある空間の方がアピールしやすいかもしれません。またこうしたレンタルスペースは撮影スタジオとして使用されることもあります。

カフェスペースなどでの活用も

空き家をリノベーションして地域のコミュニティスペースやカフェスペースとするのも良いでしょう。農家カフェや大学生カフェ、主婦のリラックススペースなど周辺環境や人口構成などを元に、多様な用途として活用できます。畑が隣接しているのなら農業体験や即売所、食事処なども視野に入ってきますし、オフィス街なら相応の打ち出し方が考えられるでしょう。人が集まる場所には活気が満ちてきます。地域のコミュニティの発信基地、地元の人が集まるスペースとなる可能性だって秘めています。空き家の再生・活用を模索する動きは広がりつつあるので情報収集してみるのも面白いでしょう。

不動産会社に相談してみよう

空き家を活用するのに欠かせないのが、まず情報収集です。単にリフォームして賃貸に出したとしても、飽和状態にあるエリアだと苦戦する可能性もあります。居住用は飽和状態でも店舗用やオフィス需要は高いという場合もあります。需要を見越した的確なリノベーション、空間のリフォームを行うためにも、まずは適切なアドバイスを求めることが重要になってきます。

こうしたアドバイスを求める相手として欠かせないのが、地域に精通した不動産会社です。地域のニーズや情報、物件や業界の動きを知るのに最も確かなアドバイスをくれます。また空き家関連の団体や法人にも蓄積されたノウハウがあるので、良きアドバイザーとなってくれるでしょう。こうして広がっていくつながりは、空き家という不動産を再び輝かせるための大きな力となるはずです。

最後に

空き家は現代の日本が抱える大きな問題です。活かされないまま朽ちていく空き家は、活かされないまま消えていく宝の山と同じです。空き家の管理が厳格化されたことで負担が大きくなる場合もあるかもしれませんが、住宅を消費するだけの時代は終わりを迎えつつあるとも言えるのではないでしょうか。空き家という呼び名のストックに手を入れ、価値ある空間へと再生させることは、日本社会に新たな価値を還元するものであり、未来へその価値を引き継ぐものでもあるのです。