会社設立って大変なの?自分にもできるの?法人化した方がいいってよく聞くけど、具体的に何がいいの?手続きの方法は?などなど、法人化を考えている方々の疑問に、そのメリットとデメリットを踏まえながらお答えしていきます。

青色申告事業者と会社設立(法人化)の違い

混同されやすい青色申告事業者と、法人化して会社を設立する事の違いを見ていきましょう。

青色申告事業者とは

青色申告事業者とは、サラリーマンやパート、アルバイトの様に所属する会社から源泉徴収された給料を貰うのではなく、クライアントと直接取引をして報酬や売り上げとして収入を得ている個人事業主や、本業とは別に不動産収入による収入のある人の事をいいます。

開業届とともに所得税の青色申告の届け出を提出する事で、所得税の税制面の優遇が受けられる青色申告ができるようになります。青色申告事業者の場合は、個人なので所得税がかかります。法人とは違うため、設立の届け出にお金はかかりませんし、法人税を課せられることもありません。

会社設立(法人化)とは

一方で、会社を設立するとなれば登録免許税や定款の作成、口座開設など手間もお金もかかります。赤字であっても法人住民税の均等割(地域によって多少差がありますが、年間7万円強)も必要になってきます。しかしながら、会社設立には設立や運営にランニングコストがかかる反面、それを上回るメリットが沢山あるのです。

これから詳しく説明する法人化によるメリットやデメリットを学び、自分の場合は法人化に適しているのかどうかの判断材料にしていただければと思います。

    自分で投資会社を作ると何が違うの?

会社を設立するか否かのポイントは税金になってきますので、現在のご自身の所得税率などを把握しておくといいでしょう。

税金種別が変わる

会社を設立すると、個人の所得として得ていた収入が会社の収益となるため、所得税ではなく法人税に種別が変わります。
累進課税により高い所得税率を課せられている方にとっては、法人税率の方が低くなる事が期待できます。

例えば

給与所得1500万 、配当所得500万を個人の所得としてしまうと、総所得2000万に対して所得税率40%がかかってしまいます。
会社を設立して株式を法人名義とすれば、個人の所得は1500万で所得税率33%、配当所得の500万には法人税率(中小法人)20%前後(設立時期などにより多少変化あり)となります。

個人の場合の納税額

(1500万+500万)×40%=800万

会社設立の場合の納税額

1500万×33%+500万×20%=595万
(実際には、控除も適用されるため数字はこの通りではありません)

所得税率の高い方ほど法人化による節税の恩恵を受けることができます。

出典:国税庁 l 所得税の税率
http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm

※投資や不動産は原則個人から法人への売却扱いなるので、従前のものはそのままで新規のものを法人で購入するケースが多く、このとおりのメリットとならない場合があります。ご注意ください。

投資会社を作るメリット

上記の説明にあるように、会社を設立すると、税金面で大きなメリットを受けることができます。しかし、メリットはそれだけではありません。
他にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

損失の繰り越しができる

法人化すると、赤字を10年間繰越することができます。赤字を繰り越せるということは、大きく黒字になった際に相殺することで、納税額を減らすことができる事になります。

諸経費を費用計上できる

法人化の手続きの際に事業内容の報告があります。その事業内容に沿った出費は経費として計上する事ができます。例えば、投資に関する書籍代やセミナー参加費用、通信費やパソコンの購入費などがあげられます。

国内株式の配当金の20%を益金不算入にできる

株式投資での収入に限りますが、国内株式で得た配当金の20%が非課税(益金不算入)になります。株式投資には所得税と住民税を合わせて20.315%の税金がかかります。

*個人の場合の納税額
配当金100万×20.315%=203,150

*法人の場合の納税額
配当金100万×80%×20.315%= 162,520

税金や社会保険料額を調整することができる

会社を設立すると、個人のお金と会社のお金は全く別のものになります。会社のお金は役員報酬として社長個人がもらいます。その報酬額に所得税がかかり、その額に応じて社会保険料が決まります。報酬額は年に一度改定することができ、金額は役員自らが決めます。

1人で多額の報酬を受け取ると税金や社会保険料が高くなるので、家族など他の役員と報酬を分け合うことでそれらを低く抑えることができます。

退職金や福利厚生の制度利用

どのような内容でどのくらいの規模の会社かによって変わってきますが、報酬としてもらえば所得税がかかりますが、家賃補助などの形で受け取れば、会社としては経費計上でき、受ける方も所得税がかからないため、双方にメリットがあります。

更に、退職金には勤続年数に応じて退職所得控除があるため税金がかからないことが多いため、月々の報酬を抑えて、まとまった額を退職金として受け取るなどといった方法もあります。

投資会社を作るデメリット

法人化のメリットをいくつか述べてきましたが、デメリットもある事を忘れてはいけません。

決算手続きが複雑

青色申告に必要な貸借対照表や損益計算書は、アプリなどを利用すれば自分で作成する事が可能です。しかし、会社となると話が変わってきます。複雑な処理や決算の手続き、税務署から指摘が入った際の内容開示などができなければいけません。そのためには税理士を入れる必要があります。(税理士費用は経費として計上できます)

社会保険料が高い

会社として役員に報酬を払い出す場合、社会保険である健康保険と厚生年金をかけなければなりません。これらは報酬額に応じて変わりますが、個人で加入する国民健康保険や国民年金より大きな負担となってしまいます。

ランニングコストがかかる

会社を設立すると収入に応じた法人税とは別に、法人住民税が年間に7万強後発生します。これは赤字の場合でも払わなければならないので、年間のコストとしてしっかり頭に入れておきましょう。また、帳簿が複雑になるため税理士を雇う必要が出てきます。(もちろん、ご自身で管理する事も可能です。)税理士費用は内容によっても様々ですが数十万円は必要となりますので確認しておきましょう。

法人化の流れ

実際に会社を設立する際の流れを見ていきましょう。株式会社にするのか、合同会社にするのかによって費用が変わってきますが、司法書士に依頼すれば15万〜30万程度は必要となります。ご自身で行えば登記費用のみで行う事が可能です。

(1)会社基本事項の決定

まずは、会社設立の準備として、発起人の情報や事業目的、商号、資本金額、事業所所在地などの基本情報を決めていきます。これらの内容は定款に記載される事になりますので、のちの事業において不利益のないようにしておく必要があります。

(2)類似商号がないか調査(法務局)

商号を決めたら、同じものや類似するものがないか確認をします。

(3)法人印作成

法人登記の際に使用する法人実印と、それより一回り小さい銀行印を作成します。必要であれば認印的な役割の社印や、会社名や所在地、代表者名などの入ったゴム印も作成しておきましょう。特にゴム印は、契約書類に何度も同じ事を記載する手間を省いてくれるので便利です。

(4)定款の作成

会社基本事項を決める際にあげた項目を元に定款を作成していきます。定款のテンプレートはネットからもダウンロードする事ができます。

(5)定款の認証(公証人役場)

定款ができたら、登記予定の地域を管轄する法務局に所属している公証人役場に行って認証を受けます。

(6)出資金等の払込

定款の認証が終わったら出資金を払い込みます。出資者と出資金額のわかる通帳が必要になりますので、誰からいくら払い込まれたのか分かるようにしておきましょう。

(7)登記申請書類の作成

登記申請書を法務省のHPからダウンロードして記入します。資本金×0.7%(最低15万以上)の登録免許税の収入印紙を郵便局で購入して準備します。更に、定款や取締役の印鑑証明や就任承諾書、印鑑届出書、資本金の払い込みがわかる書類などが必要となります。場合によっては他にも書類が必要となりますが、テンプレートは全てダウンロードする事ができます。

出典:法務省(http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/touki2.html

(8)設立登記(法務局)

会社設立登記申請書を法務局に提出して、登記簿に会社の登記事項を登録します。1週間程度で登記が完了し、その後、登記事項証明書(登記簿謄本)や印鑑証明書が入手できるようになります。

(9)諸官庁への届け(諸官庁)

税務上の手続きや労務上の手続きを行います。会社設立からの日数で期限が定められている手続きもあるので、登記が完了したらできるだけ早く手続きするようにしましょう。税務上で必要な手続きとしては、法人設立届出書の提出(義務付けられています)、必ずしておきたい手続きとしては、青色申告承認申請があります。

最後に

本業での所得が多い方や、副業収入が増えてきた方、それらを合わせる事で所得税率が跳ね上がってしまう方など、法人化を検討している方も多いのではないでしょうか。ここで述べてきた法人化のメリット・デメリットを考慮しながら自分に合った方法を見つけていきましょう。

その際、本業の職務規定違反にならないかなどの確認も忘れないようにしましょう。

監修:添田 裕美(税理士)