突然の転勤や諸事情によって、引越しを余儀なくされることがあります。個人の事情によって退去したい場合ももちろんあるでしょう。借主はアパートやマンションに入居した時同様、好き勝手に出て行けるわけではなく、決められた約束事や手順が存在します。電気や水道などの手続き同様、部屋を退去する際にはどのような手順でどのように手続きをすれば良いのか、確認しておくべきポイントはどこなのか、トラブルを未然に防ぐためにも、あらためて見直してみましょう。

賃貸契約の解約の流れ

それでは具体的に解約の流れを見ていきましょう。

解約の意思を通知する

部屋を解約する際には、まず大家さんか管理会社へ解約の意思表示をする必要があります。解約の申し入れの時期については、通常は遅くとも1ヵ月前までには連絡すると定められていることが多いですが中には2ヵ月前や3ヵ月前という場合もあるので、入居時に交わした契約書を再確認してみましょう。

また退去の申し入れの方法についての確認も済ませておきましょう。大家さんへ連絡するのか、それとも管理会社なのか。電話連絡だけで良いのか書面にする必要があるのか。通常は電話連絡ではなく、書面による申し入れが必要となる場合がほとんどです。言った言わないを防ぎ日時を確定するためにも、きちんと書面で退去通知をしておくことが重要です。

電気ガス水道に退去日の連絡をする

部屋の解約通知を出した後は、電気やガスなどのライフラインの解約手続きを行います。転勤や転居が重なる繁忙期などには希望日時での解約手続きを受け付けてもらえない場合があるため、十分な時間的余裕を持って進める必要があります。支払いはともかく特にガスの場合には立ち合いが必要になることもあるので、事前によく打ち合わせておきたいところです。

引越しを済ませ、退去立会い時に鍵の返却や敷金の精算を済ませる

引越しの手続き同様に重要なのが、部屋の引き渡しです。引越し当日または後日、大家さんか管理会社の担当者立ち合いの上で部屋の状態を確認し、鍵を引き渡すことになります。貸主・借主が双方立ち合いの上で、壁や畳などの不具合や傷み具合を確認し、修復やリフォームについて情報を共有する重要なポイントとなります。ここで合意された情報に基づいて修理やリフォームの見積書が作成され、敷金と清算されることになります。

解約通知をする前に賃貸借契約をよく確認しよう

解約通知を行うには、事前に賃貸借契約書を確認することが大切です。何を確認すればよいのか、具体的にみていきましょう。

いつまでに解約通知をするのか

部屋を解約する際の流れは前述の通りですが、この解約をめぐってはトラブルになるケースも見受けられます。契約に関する基本的な内容については入居時に作成した契約書に記載されているはずですので、まずは契約書の中身を再確認してみましょう。特に解約の時期については「1ヵ月前までに」など、明記されている場合がほとんどです。

解約通知は書面で済ませる

解約の方法、手段について記載がない場合は、大家さんか管理会社へ問合せてみましょう。慣れ親しんだ大家さんが電話連絡だけで受け付けてくれたとしても、管理会社へは書面で通知しておいた方が安心です。所定の用紙を使う必要がある場合もありますので、よく確認しておきましょう。

賃料は日割りで計算

通常賃貸の場合の家賃は前払いですが、解約によって半端になる分はどのように清算されるのでしょうか。これについても契約書に記載されているはずで、一般的には1ヵ月分の家賃を日割りで計算し、居住日数で掛けた分を支払うことになります。これはあくまでも一般論ですので、契約書に戻って再確認しておく必要があります。

短期解約違約金を支払わなくてはいけないときもある

ただし、これとは大きく事情が異なる場合があります。近年増えている敷金や礼金なしで入居可能という契約の場合がそれです。通常アパートやマンションを借りる際には敷金や礼金、前家賃などのまとまった資金が必要ですが、この制約を外して借りやすいように見直された契約が増えています。貸主にとっては空室を避ける有効な手段であり、借主にとっても入居しやすいことがメリットですが、こうした契約の増加に伴ってトラブルとなる事例も増えてきました。

貸主としては家賃未払い時の保証や退去時の修繕費用などに充てられる敷金なしで部屋を貸すことはリスクとなる上に、広告宣伝費などの費用を賄う必要があります。また通常使用での経年劣化は貸主の負担であり、賃貸契約の期間を通して家賃により回収していくことになります。そこで敷金礼金ゼロでの契約ではその分を賃料に加味することもあり、別途、短期での解約を防ぐための項目が設けられることもあります。

それが短期解約違約金と呼ばれるもので、一般的には半年以内の解約時には家賃の2ヵ月分、1年以内の解約では家賃1ヶ月分を支払うというものです。本来ならば入居しやすいように工夫された条件ですが、予期せぬ退去が想定される場合には注意が必要です。こうした重要な項目については繰り返しになりますが契約書、及び重要事項説明書で事前に説明されるはずですので、不明点をあやふやなままにせずに明確化しておくことが大切です。

敷金からは何が引かれるのか

さて入居時に預けた敷金で清算するものに未払い家賃や修繕費用があると説明しましたが、修繕の範囲はどの程度なのかという問題があります。修繕費に関してはトラブルも多く、裁判に至るケースも少なくありません。そうした実情を踏まえて、近年では一定のガイドラインが策定されています。国土交通省による「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」がそれで、裁判における判例もこれを踏襲したものになりつつあります。

出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」:(www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf

大まかに説明すると、修繕費として借主が負担すべきものは「借主の故意や過失、ケアレスミスなどによって発生した不具合」になります。裏を返せば「普通に使用していて発生する経年変化や色あせなどは、借主の負担とはならない」ということです。原状回復という言葉は「借りた時の状態に戻す」というニュアンスを含んでいる印象がありますが、普通に使用していた分の劣化であれば、大きく差し引かれる費用はないということになります。

ただし、この「普通に使用」は無為無策と同義ではありません。トイレやキッチンなどの水回りの手入れを怠ったためにカビが発生した。十分な掃除をしなかったために汚れや故障が起きた。喫煙によってクロスが変色したなど、借主の不注意な使用によって起きた不具合や修繕は借主の負担と見なされると明確にされたということでもあります。「普通に使用」とはきちんと手入れや掃除がなされ、破損や毀損に対して十分に注意が払われていたかが借主に問われていることでもあるのです。

敷金から差し引かれるものとしては上記のような修繕費用がありますが、ではハウスクリーニングの費用についてはどうでしょうか。結論から言うと、専門業者によるハウスクリーニング費用の負担の義務はありません。きちんと掃除をしていれば、それで大丈夫です。ですが、ここで問題になるのが、契約書にハウスクリーニングに関する特約が入っている場合です。

契約時には気にも止めなかったハウスクリーニング費用も、いざ支払う段になると大いに気になるものです。金額が著しく高額ではないか、借主サイドが依頼した業者によるハウスクリーニングでも可能なのかなど、気になる点は交渉の余地はあるのではないでしょうか。ただ、現実問題として入居の契約時にハウスクリーニングについて問題視したとしても、それでは他を当たって下さいで終わりかもしれません。

自分が入居する時にはきれいにハウスクリーニングして欲しい、退去時に支払うのはイヤだというの都合の良い話に見えるかもしれませんが、実は国土交通省のガイドラインでは「新規の入居者を見つけるためのハウスクリーニング費用については貸主負担」とされています。しかし、常識の範囲内の金額であり契約書などに明記され、借主が納得して署名捺印した契約にあっては、できることは交渉くらいかもしれません。

賃貸契約解約時の補修や原状回復の負担

 気になる原状回復の負担範囲についてみていきましょう。

鍵の交換費用の負担は契約で変わる

繰り返しになりますが、原状回復とは借りた時の状態を再現するということではありません。経年変化によって起こりうる劣化や自然災害による不具合を除いた、借主の使用状況に起因する不具合や傷を補修、修復することを指します。また、鍵の交換では、借主の紛失や破損が原因ではない場合は貸主の負担となります。貸主が任意で行うことと捉えれば、理解しやすいのではないでしょうか。しかし、契約書に記載のある場合にはこの限りではありません。契約書の確認が必要です。

設備の不具合は場所によって変わりやすい

ではエアコンなどの住宅設備についてはどうでしょう。こちらも掃除や手入れがなされた状態で起きた、経年劣化による不具合は貸主の負担となり、掃除や使用状況が原因で起きた故障は借主の負担とされています。水回りについても同様で、手入れが不十分なために起きたサビやカビなどによる不具合は借主負担、自然な劣化に起因するものは貸主負担となります。

壁紙やクロスについては自然劣化や色あせなどは貸主負担ですが、タバコによる変色や子供の落書きや破損については借主負担となります。壁に残った画鋲の跡や小さな傷は貸主負担ですが、常識的な使用からは考えられないものについては借主負担です。ただし張り替える範囲は破損箇所を中心にした部位とされているので、全体を張り替える必要はありません。色柄があるクロスに関しては事前によく打ち合わせておくと安心です。

フローリングや畳の汚れはどちらの負担?

床のフローリングについても自然な変色や色あせ、新規貸し出しのための張り替えは貸主負担、使用上の不注意などによる毀損は借主負担です。こちらも部位ごとの補修となります。畳の張り替えや表替えも自然劣化や変色は貸主負担であり、タバコによる焦げ付きや使用状況による毀損は借主負担です。また畳全部を交換する必要はなく、1畳単位の張り替えとなります。

こうしてみると借主優位という印象ですが、借主の不注意や掃除の手抜きなどが原因で起きた不具合は借主負担となることに注意が必要です。きちんと掃除をしていればここまで酷い状況にはならなかったという場合は、明確に借主負担となるからです。たとえばレンジフードの油汚れを放置していたために起きた不具合に関しては、釈明の余地なく借主負担となります。通常使用という意味には、適切な掃除や手入れが当然に含まれるということに留意する必要があります。

退去時の負担割合は明確な基準がある

*国土交通省の原状回復をめぐるトラブルとガイドラインを確認する

こうした補修箇所や範囲についての詳細は、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に記載されていますので、不明点や疑問点について参考として下さい。また自分のケースがガイドラインと比較して大きく異なる場合、明らかに不当な請求がなされていると思われる場合にはガイドラインを元に交渉してみるという手もあります。

最後に

賃貸契約に関わるトラブルには様々なものがありますが、契約の前に物件をよく調べて不明な点を明確にし、契約の段階で全てをクリアにしておくことで防げることは多いです。また契約書に署名捺印する前には重要事項の説明が義務付けられているはずですので、ここで疑問点について質問することもできます。

契約内容についての不明点や疑問などを明確にしておくこと、退去時の修繕内容について確認しておくこと。貸主・借主双方の修繕費の線引きについて説明してもらうこと。国土交通省のガイドラインは貸主・借主の義務と責任を、曖昧なグレーから明確に色分けしたと言えます。「知らなかった」では通らない時代に生きているという自覚が求められているのでしょう。