将来の資産形成に向けて、不動産投資を検討される方が増えてきています。不動産投資というと、様々な知識や経験が必要なイメージがありますが、不動産投資をスタートするにあたって、取得した方がよい資格などはあるのでしょうか?今回は不動産投資と資格に関してまとめていきます。

不動産投資に役に立つ資格

それでは、さっそく不動産投資に役に立つ資格を見ていきましょう。各資格の概要と、不動産投資において、どういった部分で役に立つかをまとめていきます。

 FP(ファイナンシャルプランナー)

FPとはファイナンシャルプランナーの事で、主に個人、法人の資産運用のアドバイスをしてくれる方です。

人によって人生で達成したい夢や目標は異なりますので、それに応じて、収入と支出を分析する事や、保険の見直しから資産運用に関する提案まで幅広く相談にのってくれます。FP単独で仕事をするというよりは、必要に応じて弁護士や税理士、保険・不動産の専門家と協力することで、よりよい提案をすることができる資格になります。

FP資格には国家資格である「FP技能士」と民間資格である「AFP,CFP」(日本FP協会)などがあります。す。FPの仕事自体を目指すのではなく不動産投資の参考にする目的であればFP技能士が検討対象となるでしょう。

FP2級ですと、合格するのに必要な勉強時間は200時間程度と言われています。学科試験の合格率も2018年1月の試験で28.53%と発表されていますし、難易度は高めと言えるでしょう。

出典:一般社団法人金融財政事情研修会(http://www.kinzai.or.jp/fp/news-fp/18918.html

役立つ場面

不動産投資は長期に渡っての資産形成になりますので、FPのライフプランニングの考え方が役に立つでしょう。例えば、ライフプランの立て方や考え方が分かっていれば、自分の人生のライフプランを考え、それに合わせた不動産投資を検討することもできます。

また、ローンや保険の見直しなども客観的に行う事ができますし、毎月の家計の収支の見直しなどする際にも役立つでしょう。FPは不動産に特化した資格ではなく、ライフプラン全体に関わる内容を体系的に勉強する必要がありますので、不動産投資を1つの選択肢として、他の選択肢と見比べる際にも役に立つ資格と言えるのではないでしょうか。

簿記

簿記とは、日々の経営活動を記録、計算して財務状況を明らかにする為に活用する事ができます。簡単に言うと、主にお金の出入りを記録するための方法になるので、収支を計算する事ができますね。

簿記資格となればやはり基準となるのは日商簿記検定になります。日商の簿記3級であれば、合格に必要な勉強時間は60時間ほどになります。合格率も2018年2月で48.9%と比較的取得しやすい資格になります。一方、簿記2級になると、やはり合格に必要な勉強時間は200時間ほどになります。合格率も2018年2月で29.6%と少し難易度があがりますね。

出典:日本商工会議所 簿記3級合格率:(https://www.kentei.ne.jp/bookkeeping/candidate-data/data_class3
日本商工会議所 簿記2級合格率:(https://www.kentei.ne.jp/bookkeeping/data_class2

役立つ場面

法人だけでなく、個人事業主においても、収支をきちんと記録する事は大切です。不動産投資においては、毎月の家賃とローン返済の収支計算はもちろん。年間を通して支払う税金や、定期的に考えなくてはならない修繕の支出などをまとめるのに使えます。

また、不動産投資で収入が発生すると、確定申告を行う必要もでてきますが、その際に、税金の優遇を受ける為に青色申告をするなど、簿記に合わせて関連の税務を勉強することにより、スムーズに進められる事は多いと思います。

宅地建物取引士

不動産取引に関しての専門性の高い資格になります。
不動産の売買と仲介、賃貸仲介などに関する取引を行う際に、宅地建物取引士でないと、重要事項の説明ができないなど、様々な制約が発生してしまうので、不動産業界で勤めるのであれば、最も取得しておいた方がよい資格の1つと言えるでしょう。ただし物件オーナーとして賃貸するだけであれば資格は不要であるのは言うまでもありません。

宅地建物取引士の合格率は15%~18%ほどですが、複数回受験者も多いのが特徴です。おおよそ200時間~300時間は勉強する必要があると言われています。細かい点で引っ掛ける問題も多く、法律の民法の問題を中心にかなり難しいといえるでしょう。

出典:平成29年度宅地建物取引士資格試験結果の概要 (http://www.retio.or.jp/exam/pdf/result.pdf

役立つ場面

不動産に関する法律なども学ぶことができますし、不動産投資には、不動産ならではの専門用語もたくさんありますので、実際に投資対象である不動産を調査する上でも役に立ちます。また不動産登記簿謄本の見方や権利関係の推移、担保などの知識は役立つ実務知識になるでしょう。

また、不動産取引におけるお金のルールなどもしっかり理解しておく事ができれば、ぼったくりや詐欺などの被害を避ける事もできるでしょうから、取得しておけば、より安全に取引を進めることが出来ると思います。

マンション管理士

マンション管理士は、分譲マンションの管理組合の運営や、建物の構造に関しての問題などに対処をするための知識を得る事ができる資格になります。また、マンションに住んでいる住民間のトラブルへの助言やアドバイスなどもしますし、建物の保全に関する仕事もする事ができます。やや管理組合に対するコンサルティング的な職能となります。

役立つ場面

マンションに特化した知識を得られる資格になりますので、マンションを中心に不動産投資をしていきたいと考えるのであれば、検討する資格の1つかもしれません。

自分が所有するマンションに、どういったリスクがあるのかが分かれば、不動産投資を選ぶ際の判断基準の1つとなるでしょう。ただ、資格自体は取得するのが難しいと言われており、合格率も2017年の11月の結果が9%と、費用対効果を考える必要はあるでしょう。後述の管理業務主任者資格とは異なり国家資格としての必置資格(業務上必ず有資格者を配置しなければならない規定がある資格。宅地建物取引士・管理業主任者などは必置資格)ではありません。

出典:公益財団法人 マンション管理センター(http://www.mankan.org/goukakusyagaiyo.html

管理業務主任者

管理業務主任者は、分譲マンションに関して、契約にかかわる重要事項の説明や、マンションの管理状況の報告などをする為に必要な国家資格になります。合格に必要な勉強時間は400時間ほどになり、合格率も2017年の結果を見ると、22.5%と比較的難しい資格になります。分譲マンション管理会社に勤める場合に必要な資格と言えるでしょう。

出典:平成29年度管理業務主任者試験の受験状況について (http://www.kanrikyo.or.jp/kanri/shiken_h29/pdf/pr1206.pdf

役立つ場面

不動産投資において、マンションの1室を投資対象にする事があります。その際には、部屋だけではなく、マンション全体の管理規約を見極めるのが重要になります。例えば、家賃は魅力的なのに、マンションの管理費・修繕費が想像以上に高く掛かり、利回りがマイナスになってしまうなどのリスクがあります。

管理業務主任者を取得することで、マンションの管理に関する専門知識を得ることができれば、良い管理会社、避けるべき管理会社を見極める際に役に立つでしょう。

不動産鑑定士

不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価を行うことができ、また不動産の適正な利用についても調べられる専門家です。固定資産税の鑑定評価など、不動産市場において重要な調査が、不動産鑑定士によって行われます。

役立つ場面

不動産投資をする上で、不動産鑑定士の資格を取得できるくらいの知識や目利き力があれば、不動産選びにおいて有利になります。不動産を売買する場合の価格相場、賃貸する際の賃料相場を調べる事や、資金繰りに困って不動産を担保にする際の評価、将来、相続する際などにも適正な価格を調べることができます。

ただ、この資格の最大のネックは、取得する為の難易度が非常に高いという事があげられます。勉強時間の目安は2000時間と言われ、2017年の合格率は14.5%ですが、受験者数を考えると、未経験での取得の方はほとんどいないと思われますので、不動産投資をする為に、本業をこなしながら取得するというのは、非常に大変であると言わざるを得ないでしょう。完全な専門職としての難関資格です。

出典:平成29年不動産鑑定士試験合格者の発表(http://www.mlit.go.jp/common/001206521.pdf

不動産実務検定

概要

民間資格になりますが、別名、大家検定と呼ばれている資格でもありますので、大家になる事を意味する、不動産投資とは近い関係にある資格と言えるでしょう。不動産の経営、税金対策など、実践的な知識を学べます。

役立つ場面

不動産投資における、知識はもちろん、実務に関しても学べる資格になっています。例えば、空き室対策や家賃滞納時の対策など、不動産投資をする際に懸念となる事象も学ぶ事ができるので、実際に不動産投資をスタートする前に学んでおいて損はないでしょう。

トラブルが起きてしまった際に対処法や法律知識があれば、対策もとりやすくなるでしょう。

ホームインスペクター

同様に民間資格ですが、スペクターとは住宅を診断する事ができる資格なので、住宅の欠陥や修繕費に関するアドバイスができる専門になります。中古住宅の状況をきちんと診断する事で、安全な不動産流通市場を支える、重要な仕事になります。合格率も2017年で31.5%です。

出典:日本ホームインスペクターズ協会(https://www.jshi.org/industry/record/

役立つ場面

不動産投資をしていくと、どうしても建物の修繕が必要な場合がでてきます。そういった際には当然、費用もかかります。

そんな時に全くわからないのに、高額な修繕費用を請求されてしまったら、よい不動産を所有していても、赤字になってしまう恐れもあります。そんな時に、自分で欠陥を見極めることができ、どの程度の修繕が必要なのかなどが分かれば、かなり強みになるのではないでしょうか?

住宅販売士

同様に民間資格ですが、主に住宅を販売する営業マンが取得している資格になります。住宅に関する知識や倫理観、スキルなどを身に付ける事ができます。

役立つ場面

不動産投資の対象として戸建住宅などを選ぶ際には、必要な法律知識や情報がある事は役に立つでしょう。建築に関する基礎知識や保険などについても、理解がある事によって不動産投資先を選ぶ際のヒントになると思います。

その資格取得はお金不動産投資で利益を生むのか?

様々な資格を不動産投資と関連付けて見てきましたが、取得したほうが良さそうな資格から、資格取得までするのは難しいと思われるような資格まで、様々な資格があったかと思います。

この記事を読まれている方は、資格取得を目的にしているというよりは、不動産投資で利益を得るという目的に対して、資格取得が必要かどうかを検討されている方が多いのではないでしょうか。それであれば、資格取得には、資格に応じた時間の投資と、お金の投資が必要である事を意識するのが大切です。

例えば、宅地建物取引士の資格取得であれば、200~300時間は勉強時間を確保する必要があると言われています。受験講座を受ける人も多い分野です。また、独学でやるにしてもテキスト代金や受験料などの費用も費やさなくてはなりません。この時間とお金を資格取得に費やすのと、不動産投資に関しての書籍を読んだり、セミナーに参加するのと比べて、どちらの方がメリットが多いかを考えなくてはなりません。

不動産業界で仕事をしていく人であれば、資格取得は有益かもしれませんが、本業をしつつ、不動産投資で利益をあげていきたいと考えるのであれば、資格取得にかける時間とお金を不動産投資に直接的に関わる事に投資した方が有益であるのではないでしょうか?

知識が全くない状態で不動産投資を行うのは避けたほうがいいかもしれませんが、知識を得る事が手段から目的になってしまわないように気をつける必要はありますね。

最後に

いかがだったでしょうか?不動産投資を行うにあたって、資格を持っていれば役に立つ場面は多いですが、資格を取得しなくては不動産投資ができないという事はありません。仮に資格を取得する際にも、何となく役に立ちそうだからではなく、明確な目的を持って取得するようにする必要があります。また宅地建物取引士のように単に試験に合格しただけでは合格証明に過ぎず、実際の業務を行うには資格者登録が必要で、お金もかかるものもあります。

本来の不動産投資の目的は資格を取得することではなく、実際に不動産投資を行うことによって、資産形成をしていく事にあります。

資格を取得しなくても、独学で不動産投資に関して勉強することはできますし、資格を持っている専門家にアドバイスを求めた方が効率がいい場合も多いですので、まずはどういった人が不動産投資をしているかなどを調べて、実際に話を聞いてみるなど、一歩目を踏み出していく事をおすすめします。

監修:上田 信雄(キャリアコンサルタント)