不動産投資を始める人にとってもっとも気になるのは、「どのくらい儲かるか?」ということではないでしょうか。投資物件情報によっては「利回り」が記載されており、どの程度の利益が見込めるか一目で分かるようになっています。しかし、単純に利回りだけで投資物件を選んでしまうことはとても危険な行為です。利回りの見方や計算方法、利回りに振り回されない物件の選び方について解説します。

不動産投資の3つの利回り

「利回り」とは、どの程度の利益があるかを示す数字です。同じ意味で「利益率」という言葉が使われることもあります。通常は、1年単位での利益を「利回り」と言いますが、半年単位や数年単位で利益が計算されていることもありますので、利回りを見るときは「どの程度の期間における利益なのか」についても注目するようにしましょう。

不動産投資においては、主に次の3つの利回りが存在します。

表面利回り計算方法

表面利回りとは、表面的に発生する利益、つまり「物件購入時の家賃」だけに注目した利回りのことを言います。計算方法は以下の通りとなります。

表面利回り(%)= 年間家賃収入 ÷ 物件価格 × 100

なお、表面利回りを計算するときに、家賃収入を物件価格で割ることが一般的です。しかし、物件価格に購入時の手数料を加えた金額で表面利回りを計算されていることもありますので、利回りを見るときは、物件価格に手数料が加算されているのかどうかにも注意して下さい。手数料等を加えて計算している表面利回りの方が、純粋な物件価格だけで計算している表面利回りよりも、より現実に近い数字だと言えます。

想定利回り計算方法

一棟アパートの場合に使用されることが多いのですが、購入した物件が常に満室であると想定した利回りを、想定利回りと呼びます。収益物件の広告には、大抵の場合、購入した物件が満室であると想定した想定利回りが表示されています。使用される家賃も相場の高値で計算されている場合があるので、注意が必要です。

想定利回り(%)= 年間の想定家賃収入(全室が満室と想定した収入)÷物件価格×100

実質利回り計算方法

実質利回りとは、家賃収益から経費などを差し引いた実際の利益に基づいて計算する利回りのことを言います。例えば、家賃収入が年間1,000万円あったとしてもその全額が利益となるわけではありません。管理や維持に経費がかかりますので、実際に手にすることができる利益は目減りしてしまいます。また、本体価格だけでは投資用物件は購入できません。不動産の価格に加えて不動産会社に支払う手数料や登録免許税なども支払わなくてはならないのです。そのため、実質利回りは、常に表面利回りよりも小さくなります。

実質利回り(%)=(年間の家賃収入-管理や維持に必要な経費)÷(物件価格+購入時の費用)×100

経費に含まれるもの

家賃収入から差し引く経費としては、主に次のようなものがあります。それぞれの経費を1年分で計算し、年間の家賃収入から差し引いて、実質利回りを計算してみましょう。

  • 固定資産税
  • 収入印紙代
  • 火災保険料
  • 管理人や管理サービス等へ支払う業務委託料
  • 修繕費や修繕積立金
  • 確定申告等を司法書士に依頼するときの業務委託料

表面利回りと実質利回りを計算してみる

では、実際に、表面利回りと実質利回りにどの程度の差があるのか計算してみましょう。家賃5万円が相場と考えられる部屋が10室あり、取得額が1億円(土地の価格は4,000万円、建物の価格は6,000万円)の収益アパートを購入したと仮定します。

表面利回り6.0%

家賃収益は満室時では毎月50万円ですので、年間収益は12ヵ月分として600万円になります。そのため、表面利回りは6.0%と計算できます。

表面利回り:(毎月の家賃収入50万円×12ヶ月)÷1億円×100=6.0%

実質利回り4.5%

実質利回りを計算するためには、経費がいくらくらいかかるのかを算出しなくてはいけません。税金とその他の費用に分けて、おおよその経費を計算してみましょう。

税金

固定資産税(1.4%)を計算する際の元となる固定資産税評価額(土地の購入価格の6~7割程度)は、小規模住宅用地の特例(200㎡以下)で6分の1まで軽減できますので、おおよそ次のように計算できます。

(注)標準税率、制限税率は全国一律ではありません。ご注意ください。
(注)今回は土地購入価格の6割と仮定します。

4,000万円×6割×1/6×1.4%=56,000円

建物に関しては適用できる特例がないため、固定資産税評価額に1.4%を乗じた価格が固定資産税額となります。

6,000万円×6割×1.4%=504,000円

一方、都市部の物件には都市計画税もかけられますので、都市計画税も計算しておかなくてはいけません。都市計画税の税率は固定資産税評価額の0.3%ですが、土地に関しては小規模住宅用地の特例で3分の1まで軽減できます。

  • 土地:4,000万円×6割×1/3×0.3%=24,000円
  • 建物:6,000万円×6割×0.3%=108,000円

その他の経費

火災保険料や修繕費用、不動産業者や法律事務所への業務委託料は、ケースによっても異なりますので、家賃収入の5~10%と見積もることができます。例の物件による家賃収入は600万円ですので、税金以外に毎年30万円~60万円程度の経費がかかると想定されます。

購入時にかかるお金はいくら?

1億円の物件を購入するとき、不動産価格だけでなく、不動産業者への手数料や登録免許税、不動産取得税、収入印紙代などがかかります。それぞれ以下のように計算できますので、1億円の不動産を購入するときは、実際のところ105,884,800円もかかることになります。

  • 不動産業者への手数料:(1億円×3%+60,000円)×1.08=3,304,800円
  • 登録免許税:(土地)4,000万円×6割×1.5%=360,000円
  • 登録免許税:(建物)6,000万円×6割×2%=720,000円
  • 不動産取得税:(土地)4,000万円×6割×1/2(軽減措置)×3%=360,000円
  • 不動産取得税(建物)6,000万円×6割×3%=1,080,000円
  • 収入印紙代:6万円

実質利回りを計算しよう!

では、実質利回りを計算してみましょう。購入時には物件価格1億円に加えて600万円の経費がかかると概算します。また、家賃における収益は年間600万円ですが、固定資産税と都市計画税に692,000円、その他の経費として30万円~60万円かかりますので、合計120万円ほどかかると想定しておきましょう。これらの数字から実質利回りを計算すると4.5%になります。

実質利回り:(600万円-120万円)÷(1億円+600万円)×100=4.5%

表面利回りと実質利回りの差は1.5%

このようにざっと計算してみるだけでも、表面利回りと実質利回りには1.5%もの差が生じます。不動産業者で見せてもらう資料には「表面利回り」しか記載されていませんので、実際の利回りはその数字よりも1.5%前後少ないということを念頭に入れておかなくてはならないのです。

キャッシュフローを把握する

利回りを計算するためには、入ってくるお金と出ていくお金の両方を把握する必要があります。このようなお金の流れ全体を「キャッシュフロー」と呼びます。不動産投資にかかる税金の種類と支払いのタイミング、節税対策について探っていきましょう。

不動産にかかる税金

先ほども紹介しましたが、不動産投資を始めるときには「不動産取得税」「登録免許税」を支払わなくてはいけません。また、不動産を取得している限り、毎年、「固定資産税」と地域によっては「都市計画税」も支払わなくてはいけません。

不動産取得税

不動産取得税は、不動産を取得したときに1度だけ支払う税金です。不動産購入額ではなく固定資産税評価額に対して3%(2021年 3月31日までに不動産を取得した場合は、固定資産税評価額の2分の1に対して3%)が請求されます。

登録免許税

売買や相続により不動産を所有する人の名義が変更されたときには、登録免許税を1回のみ支払わなくてはいけません。土地の売買に関しては固定資産税評価額の1.5%(2019年3月31日まで。2019年4月1日以降は2%に変更)、土地以外の不動産に関しては固定資産税評価額の2%を支払います。

固定資産税

不動産を取得すると、毎年固定資産税(その年の1月1日現在の評価額に基づいて計算)を支払わなくてはなりません。税率は一律1.4%ですが、住宅用地などのように特例措置が適用されることもあります。

都市計画税

市街化区域内の不動産を取得している場合は、都市計画税も毎年支払わなくてはなりません。固定資産税評価額に対して一律0.3%が請求されます。

※上記の金額・税率等は2018年4月現在の特例措置のもので、一定の条件等により軽減される場合もあります。
※特別にその他費用がかかる物件もあります。
※不動産取得税は、居住用・非居住用によって異なります。
※概略に付き詳細は関係各所にご確認下さい。

節税対策ができる税金

不動産取得や不動産収入を確定申告すると、法人税や所得税の一部を節税することができます。確定申告期間(個人の場合、毎年2月16日~3月15日)に過剰に支払ったことを証明する書類を添付して書式に従い税務署に申告すれば、3月末以降に過払い分が還付されます。

利回りが変化する?

表面利回りと比べると、実質利回りは1.5%ほど、場合によっては2%超も低くなってしまうことがあります。しかし、実際の利回りはさらに低くなることがあるのです。

空室物件の利回りに注意

表面利回りも実質利回りも、空室物件がないという仮定の下に利回りを計算しています。常に満室であれば良いのですが、実際にはそのような超人気物件は多くはありません。また、超人気物件であっても、入居者が引越しをするとルーム清掃機間などを含め1ヵ月~数ヵ月間の空室が出ることもあります。家賃が受け取れない期間は家賃収入もなくなりますので、当然のことながら利回りは下がってしまいます。

長期入居の物件

物価上昇や地価上昇に合わせて、家賃相場も高くなります。しかし、契約時の家賃が退去時まで適用されることが一般的ですので、長期入居者が増えると、相場が上昇した場合は、相場以下の家賃収入しか入ってこない事になります。

利回りだけで投資判断をしない

利回りだけで物件を決めてしまうと、収入どころか損失ばかり増えてしまうこともあります。投資物件を決める前に、次の点についても考慮して下さい。

高利回りである地方物件の落とし穴

10%超の高利回り物件でも、地方の物件は予想通りの収益が上げられない可能性が高いです。特に広い面積で家賃の高い物件は、利回りの計算上の家賃とその地方における家賃相場に大きな乖離があることが多く、収益どころか赤字を生み出すこともあるのです。

利回りが低くても都心のワンルームが人気な理由

利回りが低くても都心のワンルームなら、ニーズが高いために空室率が低いというメリットがあります。空室率が低いと、予想利回りに近い収益も期待できるのです。

「土地総合情報システム」で割安度合いを判断

利回りだけに注目すると、正しい投資判断ができません。空室率の高い物件なのか、相場に基づいた家賃に設定されている物件なのかを見極めてから投資物件を購入しなくてはなりません。相場を正しく理解するためには、国土交通省の「土地総合情報システム」が役立ちます。投資物件の住所から物件価格の割安度合いを判断し、厳しい目で投資物件を選ぶようにしましょう。

出典:土地総合情報システムhttp://www.land.mlit.go.jp/webland/servlet/MainServlet

最後に

投資物件に表示されている「利回り」は、あくまでも満室であったときの予想値に過ぎません。空室率なども考慮して、より正確な利回りを計算しておきましょう。また、実際にかかる経費や購入時の費用を前もって見積もっておくことも大切です。多めに経費や費用を見積もっておけば、想定外の出費に悩まされることのないよう事前に対策をしておきましょう。

監修:大長 伸吉(不動産投資アドバイザー)