不動産投資を行う場合は、個人事業主として行う方法と法人を設立して行う方法の2つの選択肢が考えられますが、それぞれメリット・デメリットがあり、法人形態も複数存在するなど、どの方法で投資を行うかについて迷っている人もいるでしょう。そこで、個人と法人のメリット・デメリットと設立する法人の形態、法人設立方法そして海外の不動産へ投資する場合などについてお伝えします。

☆個人でやる場合と法人でやる場合の分岐点とは

不動産投資を個人でやる場合と法人でやる場合の判断の要素は複数ありますが、その1つとして、不動産投資から得られる所得に対して課税される税負担で判断する方法があります。
個人事業の場合は、賃貸経営からの所得は不動産所得として総合課税されます。総合課税においては超過累進税率が適用されますので、所得控除後の課税総所得金額によって税率が変わります。税率は、所得税と住民税合算で15%から55%となっています。これ以外に個人事業税が課税される場合があります。
一方、法人化した場合には法人税や法人住民税、法人事業税が課税されることになりますが、税率は比例税率です。実効税率は、不動産事業の規模などによって変わります。一定の所得以上になると課税所得に対して約34%程度の実効税率になります。個人と法人の税負担を比較した場合、課税所得が900万円を超えてくると法人の方が税負担は少なくなる可能性が高いでしょう。ただし、中小規模の場合800万円までは税率軽減措置があります。

☆法人化するメリット・デメリットとは

税負担が減少するというメリットだけで法人化を決断するのはリスクがあります。法人を設立することによって得られるメリットとデメリットを総合的に判断した上で決断することが重要です。メリットとしては、所得に対する税率が下がる可能性があること、損失の繰越控除期間が長くなること、そして役員として報酬を受け取ることで給与所得控除を使えるようになることなど、税負担の面でのメリットあります。また、信用力があがること、融資を受ける選択肢が増えることなどもあげられます。デメリットとしては、青色申告特別控除が使えなくなること、交際費に損金算入限度があることなどの税務面でのデメリットのほか、法人として融資を受ける場合であっても個人保証を求められるケースがあること、赤字でも最低7万円の法人住民税の負担があること、そして法人化することによる管理業務の増加や管理業務対応のための税理士報酬などのコスト増加などがあげられます。

☆法人の形態1:不動産保有法人

法人化する場合には3つの法人タイプがあることを理解しておくことが大切です。1つ目は、不動産保有法人です。一般的な地主が法人化するケースとしては、このタイプの法人を設立することが多いです。個人所有の土地の上に、法人が賃貸アパートなどを建設する方法がとられることもありますし、個人所有の土地を現物出資や売却などによって法人所有に変更するケースもあります。売買を行う場合は、時価をベースに適正価格で取引を行うことや賃貸借契約の名義人を変える必要がある場合はきちんと行うこと、適正な売買契約書を作成すること、そして所有権移転登記も確実に実行することなどがポイントとなります。建物だけを法人保有とする場合は、土地の賃貸借契約を定期借地権とするか普通借地権とするかなどを明確にすること、地代を支払うか土地の無償返還届を提出するかを決めておくことなどが重要になります。

☆法人の形態2:不動産管理法人

不動産投資を行う場合は、取得した賃貸アパートなどの管理を不動産管理会社に依頼するのが一般的です。不動産投資を成功させるポイントの1つとして、優秀な不動産管理会社を見つけることがあげられます。家賃回収、賃借人からのクレームや問い合わせ対応、セキュリティーや清掃、修繕などをしっかり行うことが賃貸物件の価値上昇と適正家賃の確保につながります。
既存の不動産管理会社の中から優秀な管理会社を見つけるという選択肢もありますが、この不動産管理会社を投資家本人が出資して設立するという選択肢もあります。不動産管理会社を設立することで、管理委託料をいくらにするかによって節税できる可能性があります。不動産管理会社を設立する場合は、宅建士を置く必要がある、宅地建物取引業者としての免許を受ける必要があるなどの法令上の規定を守った上で経営する必要がある点も理解しておく必要があるでしょう。

☆法人の形態3:サブリース法人

不動産投資における3つ目の法人化のパターンは、サブリース法人の設立です。サブリースとは、いわゆるまた貸しのことです。サブリース法人を設立する方法による不動産投資のポイントは、土地や建物は投資家本人の個人所有のままでサブリース法人が一括借り上げをすることです。一括借り上げをしたあとで、サブリース法人は賃借人を募集してまた貸しをするのです。家賃の流れとしては、賃借人からサブリース法人へ、そして投資家本人へという流れになりますが、サブリース法人は運営費や空室リスクを負担することになりますので、一般的には投資家本人に入る家賃は賃借人が支払う家賃よりも少なくなります。どの程度サブリース法人にマージンを落とすかを変えることによって、サブリース会社と投資家本人の所得が変化しますので、やり方によっては節税につながることがメリットといえます。

☆法人を設立する方法とは

法人を設立するためには、会社法などの定めに従って手続きを進める必要があります。個人事業で不動産投資を行う場合は、税務署などに開業届を提出するだけで始めることができます。一方、法人設立をする場合は、ある程度準備が必要です。ポイントとしては、定款を用意すること、法人登記を行うこと、そして銀行口座を開設することです。
定款は事業内容など会社を運営する上で重要となる点について記載するものです。自分で作成することも可能ですが、ミスを避けるためにも行政書士などの専門家に依頼する方がよいでしょう。法人登記は司法書士などに依頼するのが一般的です。手続き完了まで一定の時間がかかる場合があることが注意点です。銀行口座は、個人のものを使うわけにはいきませんので、法人用のものを開設する必要があります。こちらも、必要な書類をそろえた上で手続きする必要があります。また、代表者印、会社印、銀行印のいわゆる3点セットも用意しておく必要があるでしょう。

☆海外で不動産投資する

不動産投資の対象は、国内だけでなく海外を対象にすることも可能です。海外不動産への投資を行う場合は、注意すべきポイントが3つあります。
1つ目は、為替差損益が関係してくることです。投資する場合は、現地通貨で物件を取得する必要がありますし、家賃も売却代金も現地通貨で受け取ることになります。為替差損益が発生する可能性があることに注意が必要です。
2つ目は、国によって守るべきルールや商習慣に違いがあることです。不動産を取得する場合、完全な所有権が得られない国もありますし、商取引上のルールも違います。融資を受ける場合も契約内容をよく確認する必要があるでしょう。
3つ目は、物件取得時の情報量です。言語の違いや仲介業者の質の問題などによって、日本で投資をする場合と比較して十分な情報が得られない可能性もありますし、現地で実際に物件を確認することも難しくなります。そのため、海外不動産投資をする場合は慎重に物件を選ぶ必要があるでしょう。