サラリーマンが受け取る給料やボーナスに対する所得税は、会社が年末調整で計算してくれますので、節税に関してはあまり意識をしていないという人も多いでしょう。しかし、副業収入を狙って賃貸アパート経営を始めた人は、賃貸アパートから家賃収入が得られるだけでなく、確定申告をすることによって節税できるようになる可能性あります。そこで、不動産投資をした場合の節税について、所得税の仕組みと合わせてご紹介します。

☆あなたは確定申告すれば節税できる人かもしれない

一般的なサラリーマン所得税の確定申告をする必要がありません。

会社は年末調整で従業員の年間所得税を確定し、給料から税金を天引きした上で、税務署に納付までしてくれるからです。結果的に、サラリーマンは確定申告をまったく意識することなく、マイナンバーを会社に告げて、扶養控除等の申告書類などを記入して会社に提出するだけで、申告と納税事務が終了することになります。最終的に、会社からもらう源泉徴収票で所得税の計算が終了したという結果だけを知ることになります。源泉徴収票は数字ばかりの書類ですので、詳しく見ようとせず、自分がいくら所得税を負担しているのかをほとんど意識していないサラリーマンもいるはずです。
住宅ローン控除の適用を受ける場合や医療費控除で還付を受ける場合、そして株式投資で損失が発生した場合などはサラリーマンでも確定申告をするケースはありますが、ほとんどのサラリーマンは確定申告の経験がないでしょう。年末調整で自動的に申告納税事務が終了するということは、住宅ローン控除や医療費控除の適用を受ける場合、さらに居住用財産を売却した場合などの特定の場合を除いて、経常的に節税する余地はほとんどないということを意味します。そのため、サラリーマンは節税についてほとんど意識をしていないケースが多いです。
しかし、賃貸アパート経営などの不動産投資を行う場合は、その不動産投資から生じた利益について確定申告をする必要があります。そして、不動産投資の状況によっては、サラリーマンでも節税できる余地が生まれてきます。節税のポイントとなる制度は損益通算です。損益通算の適用を受けるためには、サラリーマンでも確定申告をする必要があります。

☆不動産投資が節税になる「損益通算」とは何か?

不動産所得があることでサラリーマンが節税できる理由は、確定申告することによって損益通算が可能になるからです。損益通算とは、文字通り損と益を通算することです。具体的には、不動産所得が損失になった場合、その損失と給与所得を相殺して給与所得の金額を減少させることができ、結果的に所得税を減らすことができます。

給与所得に対する所得税は、会社が年末調整で計算してくれますが、従業員が行っている不動産所得までは加味してくれません。そのため、給与所得と不動産所得の損失を相殺するためには、確定申告をする必要があるのです。
損益通算にはいくつかのルールがあります。

まず、他の所得と相殺できる損失は4つに限定されています。その4つとは、不動産所得事業所得譲渡所得そして山林所得の損失です。不動産所得の損失はこの4つに含まれていますので、損益通算の対象となるのです。また、不動産所得が損失となった場合、その損失額のすべてを損益通算に使えないケースがあります。土地を取得するための借入金の利子は、損益通算の対象外とされているのです。例えば、不動産所得が100万円の損失で、必要経費に土地の取得のための借入利子が40万円含まれている場合は、損益通算として利用できる損失額は土地の借入利子を除いた60万円ということになります。
さらに損益通算には計算順序のルールもあります。まず、経常所得と呼ばれる不動産所得事業所得給与所得配当所得そして雑所得で相互に損益通算します。同時に、譲渡所得と一時所得で相互に損益通算を行います。それでも通算しきれなかった損失は、経常所得と譲渡・一時所得で損益通算し、それでも引ききれない損失が残る場合は、山林所得、退職所得と通算するということになっています。

 

☆所得税の総合課税と分離課税とは?

サラリーマンが不動産投資を行って確定申告をするためには、所得税の仕組みの概要を理解しておく必要があるでしょう。所得税の課税対象となる所得は、全部で10種類あります。サラリーマンが会社から受け取る収入は給与所得に該当します。また、不動産投資による利益については、不動産所得に該当することになります。そのほか、株式投資を行ったことにより売却益が発生した場合には株式等の譲渡所得が発生することになります。

これら10個の所得は、総合課税されるものと分離課税されるものに大別されます。

総合課税とは、各種所得を合算し、その合計額に応じて決まる税率をかけて所得税額を求める課税方式のことです。総合課税のために合算された所得のことを総所得と言います。また、総合課税においては超過累進税率が適用されることになっています。超過累進税率とは、所得が高ければ高いほど税率も高くなるという税率体系のことです。超過累進税率の最低税率は5パーセント、最高税率は45パーセントとなっています。給与所得や不動産所得は総合課税される所得です。その他にも、事業所得や一時所得、配当所得などが総合課税の対象となる所得です。
一方、分離課税とは、総所得金額に含めずにそれぞれの所得に対して決められた税率を適用して税額を算出する課税方式です。株式の売却益などの株式等の譲渡所得や不動産の売却益などの分離譲渡所得、退職金を受け取った場合の退職所得などが分離課税される所得に該当します。確定申告を行う場合は、国税庁の「確定申告書作成コーナー」を活用すると便利です。ホームページ上のフォームに入力することで、総合課税や分離課税を意識することなく、確定申告書を作成することができます。

☆課税所得の計算方法とは

確定申告を行うためには、課税所得の計算方法についてもある程度理解しておくことが必要になるでしょう。

課税所得の計算は、3つのステップに分かれています。
1つ目のステップは、各種所得の計算です。

会社員がアパート経営などの不動産投資を行っている場合には、給与所得と不動産所得が発生することになります。また、株式投資なども行っている場合は、配当所得や株式等の譲渡所得なども発生するでしょう。給与所得は、月給やボーナスなどの年収から給与所得控除を差し引いた金額になります。ただし給与所得については、年末調整で会社が計算してくれますので、会社から受け取る源泉徴収票を見ることによって給与所得を把握できます。不動産所得については、総収入金額から必要経費を引いて求めます。

まず、賃貸アパートの家賃収入や礼金収入を総収入金額に算入します。次に、必要経費を集計します。主な必要経費は、アパートの減価償却費や修繕費、賃貸管理会社へ支払う管理委託料、募集広告費用などです。青色申告を行う場合には、そこから青色申告特別控除を引いて不動産所得を計算します。青色特別控除の金額は、アパート10室以上を経営している場合は65万円、10室未満の場合は10万円になります。
課税所得の計算の2つ目のステップは、損益通算の上、総所得金額や分離課税の所得を確定することです。前年以前に損益通算しきれなかった繰越損失がある場合は、総所得金額、分離課税所得の順に差し引きます。
最後の3つ目のステップでは、総所得金額などの課税標準額から、基礎控除や配偶者控除、扶養控除、そして医療費控除や社会保険料控除などの所得控除を差し引いて課税総所得金額と課税譲渡所得などを確定します。

課税総所得金額には超過累進税率を適用し、それ以外の分離課税所得についてはそれぞれ決められた税率をかけて所得税額を算出します。