サラリーマンが受け取る給料やボーナスに対する所得税は、会社が年末調整で計算してくれますので、節税に関してはあまり意識をしていないという人も多いでしょう。しかし、副業収入を狙って賃貸アパート経営を始めた人は、賃貸アパートから家賃収入が得られるだけでなく、確定申告をすることによって節税できるようになる可能性あります。そこで、不動産投資をした場合の節税について、所得税の仕組みと合わせてご紹介します。

減価償却費とは何?

建物や自動車などの固定資産のうち「時の経過とともに資産価値が低下していく」ものを減価償却資産といいます。減価償却資産を取得した時に必要だった金額は、取得した年に全額費用とするわけではなく、使用可能な年数(耐用年数)に分けて経費とすることができるのです。

の耐用年数にわけて経費にすることができる費用を減価償却費と呼びます。耐用年数は個人や民間業者が独自に設定するものではなく、固定資産の種類や構造などで異なり、法律で定められています。また、全ての固定資産が対象となるわけではなく、取得価格が10万円未満の場合や使用期間が1年未満の場合は、全額その年度の経費にすることができますし、取得価格が20万円未満の場合は一括して3年間に分けて償却することが可能です。例えば取得価格が8万円だった場合は、その年に全額経費にするか、3年にわけて経費にするかを選ぶことができます。

定額法と定率法の違い

それでは、減価償却の計算方法はどのようになっているのでしょうか?

減価償却の計算式は2通りの方法があります。それが「定額法」と「定率法」です。その違いはそれぞれの名前の通りで、毎年一定額を減価償却費として計上していく方法が「定額法」と呼ばれ、毎年一定の比率で減価償却を行っていく方法が「定率法」と呼ばれます。
この2つを比べた場合に一番大きな違いは償却金額の違いで、できるだけ早く経費化したい場合は「定率法」を選び、長い期間経費として計上したい場合は「定額法」を選ぶと良いでしょう。
何故かというと、定率法は平成24年4月以降に取得した固定資産に対しては定額法の2倍の償却率で計算するように決められているからです。

例えば1,000万円で取得した固定資産の耐用年数が10年の場合、定額法の償却率は10%で毎年100万円を減価償却費として計上することができます。これに対して、定率法の償却率は20%となり、取得初年度は1,000万円×20%=200万円を経費として計上できますが、2年目は800万円×20%=160万円、3年目は640万円×20%=128万円となるため、毎年経費として計上できる減価償却費は減少していきます。そのため、この例で考えると5年目以降の減価償却費は定額法の方が大きくなっていくのです。

ただし、減価償却を行える資産については建物や機械、自動車などがありますが、平成10年4月以降に取得した建物については定額法しか選択できませんので、注意しましょう

鉄筋コンクリート、鉄骨(4mm超、3mm超、3mm以下)、木造の耐用年数とは?

先ほど法定耐用年数は、固定資産の種類や構造などで異なり、法律で定められていると述べました。建物における構造は、木造や鉄筋コンクリート造、れんが造、金属造など細かく分けられています。どの程度の耐用年数が定められているかと言うと、木造住宅は22年、鉄筋コンクリート造は47年、金属造のものはその鉄骨の太さに応じて、4mm超なら34年、3mm超から4mm以下なら27年、3mm以下なら19年となっています。
耐用年数がそのまま減価償却費を計上できる期間になりますので、基本的には長ければ長いほどよいのですが、耐用年数が長いものほど建築費も高くなりがちですので、難しいところです。また、中古物件の購入を検討する際は「ただ単に取得価格が安いから」というような安易な理由だけでなく、構造によって減価償却の残存期間が違うということも頭に入れて探すようにしましょう。

節税メリットとは?

不動産投資を行う際に減価償却費を計上できることで得られる一番のメリット節税効果です。日本の所得税は累進課税制度といって、所得が多ければ多いほど税率が上がる仕組みがとられています。そのため、一括で経費として計上するより、数十年に分散して経費とする方が結果的に支払う所得税は安く済むことが多いのです。

例えば、7,000万円の賃貸アパートを購入して700万円の家賃収入があったとします。

一括で経費計上してしまった場合は、その年の所得はマイナスになりますが、翌年以降は経費として計上できなくなります(確定申告を青色申告で行えば繰り越し控除は可能です)ので、毎年23%の所得税がかかります。

しかし、耐用年数が仮に35年だとして減価償却を行っていくと、毎年200万円ずつの経費とすることができるため、その場合の所得税は20%となります。毎年所得を200万円減少させることができる上、金額によっては所得税の税率そのものを下げる効果も期待できることにより、結果的には節税に繋がるのです。

新築と中古の場合で異なる?

ここまで減価償却の償却方法について説明してきましたが、これは全て新築の場合に当てはまる償却方法です。中古物件と新築物件の耐用年数の計算方法が同じだとしたら、ちょっとおかしいと思いませんか?ちゃんと中古物件には中古物件用の耐用年数を算定する方法があります。中古物件の購入に際して必要だった資金がその中古物件の再取得価格(新築時の建設費用)の50%以下の場合は耐用年数を見積もることができ、50%以上の場合は法定耐用年数を用いることとなっています。
法定耐用年数を用いない場合、中古資産に関しては建物だけでなく自動車や機械も全て、原則的には購入した時点から「あと何年使用することができるのか」という年数を見積もり、その年数を耐用年数として減価償却費の償却率に当てはめていきます。この見積もる方法を「見積法」と呼びます。
しかし、実際にはその中古資産があと何年持つかということを判断することは非常に難しいため、計算式を用いて算出することが多く、その方法を「簡便法」と呼びます。

中古物件の耐用年数の算出方法、見積法とは?

賃貸アパートなどの不動産における耐用年数を見積法で算出することは非常に難しく、国税庁の「耐用年数通達」を見ても「合理的に見積もった耐用年数により償却する」としか書いてありません。実際のところ、その建物を後何年利用することができるのかは個人ではとても判断できるものではありません。
そこで多少お金はかかるかもしれませんが、建物や税金の専門家である建築士や不動産鑑定士、税理士などに頼ることをお薦めします。それら専門家の「合理的に見積もった耐用年数」がそのまま耐用年数となります。

中古物件の耐用年数の算出方法、簡便法とは?

原則的には耐用年数を見積もることとされていますが、普段建築士や不動産鑑定士などに馴染みのない人にとっては少しハードルが高いかもしれません。そのため「簡便法」が使われることが多くなっています。
「簡便法」の算出方法は、その中古物件を取得した時点で物件の築年数が法定耐用年数の期間を経過してしまっているかどうかで変わってきます。中古物件の築年数が法定耐用年数を経過してしまっている場合は、新築時の耐用年数×20%という計算式を用いて計算します。例えば築年数が35年の中古物件を購入して、その物件の法定耐用年数が30年だった場合は、30年×20%=6年が残存耐用年数です。
法定耐用年数未満の物件を購入した場合の計算式は、(法定耐用年数-築年数)+(築年数×20%)となります。例えば、築年数が20年で法定耐用年数が30年の中古物件を購入した場合、(30年-20年)+(20年×20%)=14年が残存耐用年数です。この計算式の場合、端数が出ることがありますが、1年未満の端数である場合は切り捨てて、2年に満たない場合は2年として計算します。