個人事業として賃貸アパート経営などの不動産投資を行っている場合、規模が大きくなって不動産所得の金額が増加すると、超過累進税率が適用される関係で所得税の負担が大きくなります。また、不動産業者などからは「法人化したら?」とアドバイスを受けることもあるでしょう。法人化のメリットが理解できていれば法人化した方が有利かどうか判断できるはずです。そこで、不動産投資を法人化して行う場合のメリットについてお伝えします。

☆メリット1:給与所得控除が受けられる

法人化のメリットの1つ目は、役員となって役員報酬を受け取る形にすることによって給与所得控除が使えるようになることです。個人事業主として不動産投資を行う場合は、家賃収入から自分の人件費を必要経費として差し引くことはできません。しかし、法人化することによって、賃貸経営から生まれる利益から役員報酬をもらう形をとることができるようになります。その役員報酬は、一定の要件を満たせば損金算入でき、利益を減らすことができます。さらに、受け取った役員報酬は、一般の会社員のように給与所得控除を受けることができます。その結果、個人事業主の場合の課税所得よりも、法人化した場合の課税所得の方が少なくなります。税率の違いがありますので、確実に節税できるとは断言できませんが、課税所得が減らせる点は大きなメリットといえるでしょう。

☆メリット2:税率が下がる場合がある

法人化のメリットの2つ目は、法人化すると税率が下がる場合があることです。個人事業としてアパート経営を行う場合、家賃収入から生まれる利益は、不動産所得として所得税の課税対象となります。不動産所得は総合課税され、超過累進税率が適用されます。また、住民税も10%課税されます。所得税・住民税を合算すると最低税率は15%、最高税率は55%となります。これに対して、法人税は所得800万円までは15%、超えた分は23%強の税率で、事業税なども含めた実行税率でみると、資本金1億円以下の東京都の法人の場合約35%、資本金1億円超の場合は約30%の負担になるといわれています。そのため、賃貸経営の規模が大きくなると法人化することによって所得に対する税率が下がり、節税できる可能性があります。

☆メリット3:信用力が高まる

法人化した場合の3つ目のメリットは信用力が高まるという点です。法人化すると信用力が高まる理由の1つとして事業の継続性の違いがあげられます。個人事業の場合は本人が死亡すると遺族がアパート経営を引き継がない限り事業は消滅してしまいますが、法人化してあれば消滅することはないという点が大きいでしょう。信用力は、まず、物件探しの場面で役に立ちます。不動産業者も信用できる投資家には積極的に優良物件を紹介してくれるはずです。また、融資を受ける場合にも金融機関に対する信用力がアップすることで、個人では融資を受けられないようなケースでも、法人化したことによって融資が受けられるようになる可能性があります。また、賃貸事業のために従業員を雇う場合、法人化して信用力が上がることで採用を有利に進めることも期待できるでしょう。

☆メリット4:経費の項目が増える

不動産投資を法人化することのメリットの4つ目は、経費の項目が増えることです。所得税の計算おいては経費のことを必要経費、法人税の計算においては損金と呼びます。それぞれ、所得を減らす効果がありますので、多くの経費計上が認められれば節税につながります。法人化すると、個人事業では計上できなかった損金計上が認められるようになります。例えば、投資家本人の人件費としてもらう役員報酬や、家族従業員の退職金などが損金計上できるようになります。さらに、投資家本人の生命保険料は、個人事業の場合は生命保険料控除として最大4万円の控除が受けられるだけですが、法人化することで、定期保険であれば保険料の全額を損金処理できるようになります。法人化することで経費を多く計上できる余地が広がります。

☆メリット5:青色申告の損失繰越控除期間が長くなる

不動産投資の法人化による5つ目のメリットは、損失の繰越控除期間が長くなることです。所得税における損失の繰越控除とは、賃貸事業から生じた不動産所得の損失を、同じ年の他の所得と損益通算して引ききれないで余った損失を繰越して、翌年以降に発生する所得から控除できる制度で、青色申告者が活用できます。ただし、繰越でき期間は、翌年以降3年までということになっていますので、投資初期などに多額の損失が生じた場合は、使いきれない可能性があります。一方、法人税も同じような制度がありますが、繰越できる期間は損失発生翌年から9年間とされています。そのため、発生した損失を繰越控除で使いきれないリスクは個人事業の場合と比較すると小さいといえるでしょう。

☆メリット6:相続税の対策になる

不動産投資を法人化する場合の6つ目のメリットは、相続税対策になることです。個人事業で不動産投資を行う場合、事業主に相続が発生すると相続人に相続税負担が発生する可能性があります。相続税の財産評価は、土地については路線価評価から借家権を控除し、さらに要件を満たせば小規模宅地等の特例の適用を受けることで50%減にできます。しかし、それでも相続税負担が重くなる可能性はあります。一方、法人化することによって、相続人は建物や土地を相続するのではなく、法人化された株式を相続することになります。多くの場合、被相続人本人がすべての株を保有していたでしょうから、自社株の評価は土地や建物の相続税評価と同様の価値になる純資産方式が適用される可能性が高いですが、会社規模を大きくすれば、評価額が低めになる類似業種比準方式が使えるようになります。また、事前に後継者に譲る対策をとることで自社株にかかる相続税や贈与税の納税猶予や免除を受けられる可能性もあります。

☆メリット7:繰越損失の期間を長くできる

不動産投資を法人化する7つ目のメリットは、損失の繰越期間を長くできるようにコントロールできることです。すでに触れたように、法人化すると損失の繰越控除は9年間可能になります。そのため、発生した損失は9年間かけて、節税効果が高いタイミングで繰越控除すると効果的です。利益率が低下した物件などを売却することを検討するとき、その事業年度で売却損を出すかによって法人税は変わってきます。物件売却以外の利益と物件売却損が同じであれば、仮に繰越損失があったとしても、その年は利益が出ませんので、繰越損失を使わず先延ばしし別の譲渡益が出る年などに繰越損失控除をするなどのコントロールが可能になります。個人で物件譲渡を行う場合は、不動産物件の売却は分離譲渡所得となり、物件売却損は損益通算も繰越損失控除もできませんが、法人であれば所得に区分はありませんので、繰越損失を使える期間を長くすることが可能になります。

☆メリット8:資金調達方法の選択肢が多い

法人化して不動産投資を行う8つ目のメリットは、資金調達方法の選択肢が広がるという点です。原則としては、個人でも法人でもノンリコース、リコースなど複数のタイプの融資を受けることは可能ですが、信用力の面から法人の方が有利になるケースもあります。しかし、決定的な違いは、法人の場合、増資や社債の発行による資金調達が可能になることでしょう。新株を発行したり、社債を発行したりして資金調達することは、個人事業の場合は不可能です。資金調達は、多額の資金を必要とする不動産投資においては生命線ともいえる大切なポイントです。その資金調達で有利になる法人化は検討してみる価値があるといえるでしょう。