賃貸アパート経営などの不動産事業を法人化したいと考えている人もいるでしょう。法人化することによって税率が低くなって税負担が減ったり、事業主に報酬を支払うことによって所得税の給与所得控除と法人税の人件費損金算入の両方のメリットを得ることで節税につながったりします。また、法人化することによって対外的な信用力を高めることにつながりますので、融資を受けやすくなったり、事業拡大がやりやすくなったりするメリットもあります。しかし、法人化した場合にはデメリットもありますので、正しく理解しておく必要があるでしょう。そこで、法人化のデメリットついてご紹介します。

☆デメリット1:税務署のチェックが厳しくなる

不動産投資を法人化して行う場合のデメリットの1つ目は、税務署のチェックが厳しくなるということです。税務処理をちゃんとしていれば税務調査はこわいものではないと考えるかもしれませんが、法人化することによって税務調査の対象になる頻度が上がるため、税務調査の対応で時間を取られることが大幅に増える可能性があります。個人事業の場合は、よほど悪質なことをしていると税務署から見られていなければ、ほとんど税務調査の対象になることはありませんが、法人になると、定期的に税務調査を受けることになる可能性が高いでしょう。会計処理や税務処理の内容も法人の方が煩雑ですので、チェックも厳しくなることが予想されます。正しい税務処理を行うことは当然ですが、定期的に行われる税務調査の対策も考える必要があるでしょう。

☆デメリット2:法人住民税が課税される

法人化すると、不動産賃貸事業から生まれる利益に対しては、所得税や個人住民税などではなく法人税が課税されるということは知っている人がほとんどでしょう。しかし、法人住民税も課税されることになりますので、税務コストを見積もる場合には忘れないようにする必要があります。法人住民税とは、自治体の公的サービスを受けている対価として負担する義務がある税金です。法人税が国税であるのに対し、法人住民税は地方税に分類されます。法人住民税の計算は、法人税に住民税率をかけて求める法人税割と資本金等によって決まる定額の均等割で構成されています。東京23区内の場合は、都民税と呼ばれますが、それ以外の地域の場合は、道府県民税と市町村民税に分かれています。これらを合わせて法人住民税といい、この税金を負担する必要がある点が2つ目のデメリットです。

☆デメリット3:交際費が800万円まで

賃貸不動産事業を法人化する場合のデメリットの3つ目は、損金に算入できる交際費に制限があるということです。個人事業として行っている場合は、事業に必要な交際費であれば、所得税の計算上、全額必要経費に算入できます。しかし、法人化すると、法人税の計算上、交際費は決められた金額までしか損金算入できず、超えた分は、資金流失があるにもかかわらず利益を減少させられずに法人税が課税されることになります。法人税法上の交際費の損金算入限度額は、大法人でない場合、年間800万円までか、飲食接待費の50%のどちらか大きい金額までとされています。多額の交際費を使う予定がある場合は、この点について知っておく必要があるでしょう。場合によっては、税負担を考慮して交際費の使い方の見直しも必要になる可能性があります。

☆デメリット4:給料が変えられない

不動産投資を法人化して行う場合のデメリットの4つ目は、給料が変えられないことです。個人事業で事業を行う場合は、事業主本人の給料は必要経費として計上できません。一方、法人化して事業主が役員になって役員報酬をもらうと、給与所得控除が認められるメリットがありますが、その役員報酬には所得税がかかります。それでも、役員報酬を法人の損金に算入できれば問題ないでしょう。しかし、損金として算入するためには一定の要件を満たす必要があります。要件を満す方法を定期同額給与といいます。役員報酬は届け出た金額を毎月同額で支給する場合は損金算入が認められる仕組みになっており、事業年度の中途で変更した場合は、それ以降は損金算入が認められないことになっています。そのため、事業主が役員報酬を受け取る形にする場合は、税負担を考えると事業年度の中途で報酬を変更できないというデメリットがあります。

☆デメリット5:手続きが手間

法人化して不動産投資を行う場合のデメリットの5つ目は、手続きに手間がかかるということです。法人化することによって、個人事業にはない数多くの手続きを行う必要が生じます。例えば、個人事業を開始する場合は、税務署などに開業届を提出するだけ始められますが、法人を設立する場合は、法務局で法人登記手続きが必要になります。また、事業主本人を含めて、法人で働く人に関する健康保険や厚生年金の手続きをする必要もあります。従業員を雇っていれば、雇用保険や労災の手続きも必要です。さらに、社会保険関係だけでなく各種法人に課税される税金の手続きも必要になってきます。そういった手続きの手間の増加はデメリットといえます。その手間を代行してくれる専門家はいますが、業務を委託すれば当然コストがかかることになります。

☆デメリット6:赤字でも年間7万円の税金が発生

不動産投資の法人化のデメリットの6つ目は、法人所得が赤字になったとしても、一定の税金を支払う必要がある点です。固定資産税は、保有しているだけで課税される税金で、黒字でも赤字でも支払う必要がありますが、これは個人事業の場合も同じですのでデメリットにはなりません。問題は法人住民税です。法人住民税の法人税割は、赤字になって法人税が発生しなければ負担する必要はありませんが、均等割については赤字になっても少なくとも最低金額である7万円は毎年負担する必要があります。内訳は、道府県民税均等割が2万円、市町村民税の均等割が5万円です。赤字の場合の税負担は資金繰りが大変になりますので、事前に資金繰り対策をしっかり行っておく必要があるでしょう。

☆デメリット7:青色申告の特別控除がない

賃貸不動産事業を法人化して行う場合の7つ目のデメリットは、青色申告特別控除がないということです。法人化しても青色申告制度はあります。青色申告をすることによって法人税制上の各種特典が使えるようになる点では、個人事業で行う場合の所得税の仕組みと似ています。しかし、大きな違いが1点あります。それは、所得税で設けられている青色申告特別控除に相当する制度が、法人税では用意されていないという点です。具体的には、65万円もしくは10万円の控除が使えなくなりますので、その分課税所得が上昇して税負担が増加してしまうというデメリットがあるということです。

☆デメリット8:税理士との契約などの運営費がかかる

法人化して不動産投資を行う場合の8つ目のデメリットは、税理士との契約など運営費が増加することです。個人事業の場合と比較すると、法人化することにより税法が求める処理や会社法で要求する仕組みの整備などが複雑になります。専門的な知識が要求されることもあり、多くの場合、税理士や弁護士、司法書士、社会保険労務士などに依頼して対応してもらうことになります。また、税理士などの専門家が確認する前段階で、会社内で処理すべき内容も高度になるため、対応するために社員を雇う必要が出てくる場合もあります。その結果、人件費や外部の専門家に支払う報酬が増加することになります。法人化した場合は、そういった費用が増加することをある程度覚悟する必要があるでしょう。