個人で不動産投資業を始めてある程度事業にめどがつき始めた段階で考えなければならないことの1つが、法人化のタイミングです。法人化したほうが様々なメリットがあることはよく知られていますが、はたして資金力や事業実績のとぼしい新設法人に対して十分な融資を実行してくれる金融機関があるのか気になるところです。投資家の方のなかには十分な担保物件を用意できない、あるいは家族や親戚を連帯保証人などにしたくない、という方もいるでしょう。このコラムではそんな不動産投資業を始めた段階や軌道に乗り始めた段階の方でも、有利な融資条件を引きだすことができる方法について少しご紹介していきます。

☆法人化するだけで融資を受けられるわけではない

不動産投資業が軌道に乗り始め、これから本格的に展開していきたい方にとって、節税効果や減価償却費の計算、役員報酬の設定などの様々な経済的なメリットを考慮すると、法人化を検討することは避けられない課題です。複数の物件購入を検討している場合などでは法人化していたほうが税務上有利ですし、なにより金融機関から大きな金額の融資を受けやすい可能性があります。しかしながら個人から法人化して不動産投資を続ける、あるいは法人を設立して新しく不動産投資業を始めるのに際して、はたして実績のない新設法人に対して銀行が融資してくれるだろうか、という疑問がわいてきます。確かに通常の事業融資では、金融機関から2期から3期分の黒字決算を求められますし、基本的に実績のない法人や赤字決算を出している法人への融資を金融機関は嫌がります。また銀行によって不動産投資業への融資に積極的かそうでないかという違いがあって、借入先を探す場合は、新設法人への融資にも積極的で不動産投資業に熱心な地方銀行などに絞り込んで融資の申し込みをするなど、様々な方策をとる必要などがあるでしょう。
いずれにしてもかなりのしっかりとした信用保証や物件担保などを用意しておかなければ、新設法人に対して十分な融資をしてくれる金融機関はそれほど多くはないのが実情です。それでは新たに参入する方や個人で不動産投資業をされてきた方が法人化するにはどういった方法があるのでしょうか?そこで注目する方法が「資産管理法人を設立する」という方法です。

☆ 資産管理法人という新設法人

資産管理法人というと十分な資産を持っている資産家の方々の節税対策のための法人というイメージがあるかもしれません。しかし不動産投資家にとってこの法人は、金融機関からの融資を受けるための与信を得るために効果的な仕組みだと言えます。
具体的にどういう仕組みかというと、新設の資産管理法人を設立し、その法人を作った不動産投資家自らが新設法人の連帯保証人となることで、法人そのものを個人投資家の資産管理団体という形をとります。あくまで個人投資家への融資という名目としつつも、実際に金融機関は法人に対して融資することになるので、結果的に法人化による様々な税制上のメリットが受けられるという仕組みです。この仕組みのキモは新設法人の与信審査を、実質上は投資家個人の与信審査とすることができるという点で、この方法によって事業実績のない新設法人であっても金融機関から十分な融資を得られる可能性が広がるのです。ノンバンク系や地銀などのなかには個人の不動産投資家に対してしか融資をしないという金融機関もあるのですが、資産管理法人へは融資を行ってくれた、というケースもあるようです。したがって様々なメリットを総合的に考慮していくと、資産管理法人の設立という方法は検討に値する方策だと言えるでしょう。

☆ 資産管理法人のメリット

資産管理法人の設立によるメリットは大まかに言って3つほどあります。
まず1つ目は法人への融資を受けるときの連帯保証人が投資家本人のみでいいこと。個人で不動産投資の融資を受けるときは、親や配偶者などを連帯保証人に求められるケースが大半です。しかし法人に対する連帯保証人は当事者である本人のみでOKなので、手間やリスクをかける負担を大いに減らすことができます。
そして2つ目のメリットは、法人化による税務上のメリットを受けられ、会計上も便利で有利な点が個人事業よりも多いという点。大きな金額や何棟もの不動産を動かす場合は不動産取得税や法人税率などの点で個人よりも法人のほうが圧倒的に有利ですし、法人の場合は減価償却費の計上に融通が利くため、不動産投資の生命線である次回の融資を得るために有利となるような決算書を作りやすいのです。しかも経費化できる範囲が個人事業と比べて格段に広く、例えば交際費の取り扱いにしても、年間800万円以内あるいは飲食費の50%を経費に計上するかのどちらかを選択できるなど、収益化のために使った費用をすべて経費化できるというメリットがあるのです。
3つ目は、事業が成功している場合には、法人化していたほうがさらなる融資額を引き出しやすいという点です。信用のある法人への融資限度額は個人と比べて大きいので、次の投資物件の開拓も実行しやすくなり、不動産投資業のさらなる事業拡大が見込めます。このように新設法人の弱点である信用保証を、投資家本人の信用保証という形で補い、なおかつ法人化によって受けられる税制上や事業上のメリットを受けるための仕組み、それが「資産管理法人の設立」という方法なのです。

☆ 日本政策金融公庫とは 

この方法の他に資力のとぼしい不動産投資家などに人気の融資方法をもう1つご紹介しましょう。それは政府系金融機関である日本政策金融公庫から融資を受ける方法です。日本政策金融公庫というと、個人事業主でこれから事業を開始する方などを中心に人気のある金融機関ですが、もちろん不動産投資業に対しても融資を行っています。
ただし条件が決まっていて、不動産賃貸業であること(個人でも法人でも可)、担保物件があること、公共料金や税金などの未払いのないことという3つの条件を満たす必要があります。キャピタルゲインのみを収益とする不動産投資業や、十分な担保が用意できない場合(あくまで物件担保です。融資額の2分の1から3分の1以上の評価額が必要。評価は日本政策金融公庫の独自基準)、税金等の滞納などがある場合は審査に通りません。借入期間は10年から15年(融資希望者が30歳から54歳男性の場合は10年それ以外の場合は15年)で金利は固定金利で1.25から1.85%と幅があります。この金利の決定は提供される物件担保の評価額によって決まり、その評価額の借入額に対する割合によって金利を決定します。固定金利でしかも低金利で融資を受けられ、保証人も不要、必要な条件や書類をしっかり準備すれば最短で1か月半程度で融資が実行されるという点が日本政策金融公庫からの融資の特長です。
政策上、女性や若者、高齢者の場合は金利を下げてもらうなどの優遇措置を受けることができるので、所得の低い方であっても事業融資を受けることができますし、実績のない新設法人であっても比較的簡単に融資を受けることができます。ただし民間の金融機関よりも手続き上融通の利かない点はあるので、担当者との面接などでは事業計画について明確に説明する必要があります。利益を生み出せることよりも確実に返済できることのほうが重視されますので、利用する場合は公庫側の信用を損ねるような方法は避けたほうが賢明です。