不動産投資は家賃収入や将来的な売却益を目的としつつ、高利回りを狙うことが可能な投資のひとつです。国内不動産がインカムゲイン(家賃収入)を目的としたケースが多いのに対し、海外不動産ではキャピタルゲイン(売却益)を期待した投資が行われる傾向にあります。しかし海外不動産は、国によってその取得に制限がかかる場合があるのです。今回は、海外で不動産投資をする場合の基礎知識として、取得制限や国別の特徴について解説します。

☆外国人の不動産取得制限

日本国内では、外国人に対する国内不動産の取得制限はありません。国籍にかかわらず、日本人と同様に土地を含む不動産の所有権を取得できます。所有権には期限がなく、売買はもちろんのこと相続も可能です。さらに取得時の税金も日本人と同じで、外国人だからといって日本国内の不動産取得が不利になることはありません。
しかし、これは日本国内のお話。不動産取得は国によって厳しい規制がかけられている場合があり、外国人が自国の不動産を所有することを認めていない場合があります。むしろ、日本のように外国人の不動産取得に何ら制限がない国のほうが少ないといえるでしょう。その理由として、「不動産取得による合法的な乗っ取り」を防ぐというものが考えられます。発展途上の国や経済的に貧しい国では、先進国や経済大国から自国の領土や資産を守るため、外国人の不動産取得に制限をかける傾向にあるのです。そのため、外国人の不動産取得を認めているのは、いくつかの例外を除き欧米諸国が多いといえるでしょう。

☆不動産取得制限のない国

では、外国人による不動産取得に制限がない国を紹介します。数は少ないながらも、日本人が不動産を取得できる国は存在しているのです。
日本、ニュージーランド、アメリカ、ドイツ、イギリス、イタリア、スペイン、フランス、アイルランド、カナダは、外国人であっても不動産取得に制限がありません。
これを見ても、日本プラス欧米諸国で占められていることがわかります。また、旅行先として人気がある国が多いことも特徴でしょう。ただしこれ以外の国では、外国人の不動産取得を認めていないか、一定の制限下で認めている場合が大半となります。つまり日本を含むこれらの国々は、外国人にも土地付き不動産の購入を認めている珍しい国、と言い換えることもできるのです。特にアジアでは日本が突出して自由度が高く、次いでシンガポールやマレーシアなどが比較的ゆるやかな規制を敷いているといえるでしょう。

☆条件付で不動産取得が可能の国

次に、一定の条件付きで外国人の不動産取得が認められている国です。
代表的なところとしては、シンガポール、オーストラリア、フィリピン、中国、タイ、マレーシアなどがあります。
この中で外国人名義の土地購入を認めているのは、オーストラリアおよびマレーシア。その他の国では区分所有は認めていても、土地付き一戸建てという不動産の買い方はできないことになります。また、土地購入が可能なオーストラリアとマレーシアにもそれぞれ一定の制限があり、外国人が海外に「土地付き一戸建て」を持つことの難しさがわかる結果といえるでしょう。ただし、シンガポールやマレーシアは制限さえクリアすれば、税制や将来性の観点から魅力的な点が多く、海外不動産投資の候補として名前が挙がることも少なくありません。都市部の街並みが綺麗で近代化しており、それゆえに日本人からの人気も高く、旅行先や移住先として選ぶ人が多いことも特徴でしょう。

☆国別の特徴(シンガポール)

それでは、海外不動産投資先として候補に挙げられることが多い国々の特徴を紹介していきます。
まずシンガポールです。シンガポールは世界中から富裕層や企業が集まっており、海外資本の流入が顕著な国といえます。さらには、治安の良さも魅力のひとつです。政情不安や治安の悪さは「カントリーリスク」として不動産投資を行う上で重要な指標となりますが、シンガポールはこの点で安心できる投資先といえるでしょう。シンガポールでは、土地付きの不動産は取得できないものの、コンドミニアムなどの区分所有は可能です。また、不動産の売却益(キャピタルゲイン)や家賃収入(インカムゲイン)が非課税ということも大きなポイント。相続に関しても税金がかかりません。加えて、建築中の物件であっても価格の2割を支払い済みであれば、第三者への譲渡が認められており、譲渡のタイミングによって利益を出すことも可能でしょう。一方で、不動産価格が東京以上の水準にまで高騰していることや、賃貸物件の利回りが低いこと、不動産購入時の加算印紙税が高いといったデメリットもあります。

☆国別の特徴(アメリカ)

アメリカは外国人の不動産取得に対して非常に寛容で、オープンな国といえるでしょう。外国人に対する規制はほとんどなく、中古住宅市場も安定しています。つまり築年数による資産価値の下落リスクが低い投資先といえるのです。さらに人口は増加傾向、世界最大の経済大国、取引の情報量と透明性に優れているといったプラス面が数多く存在しています。また、日本の不動産とは減価償却の割合が異なり、これを利用した節税効果も期待できるでしょう。日本では世界中のどこの国で収入が発生した場合でも、日本国内で申告、納税が必要な「全世界課税」を採用しています。これはつまり、海外の減価償却割合を利用して、最終的に申告する所得を圧縮できることにもつながるのです。例えば日本の土地付き一戸建ての場合、減価償却時の建物割合は2割で土地割合が8割です。これに対してハワイでは、建物割合が8割で土地割合が2割。これを利用すれば、ハワイの不動産に投資して建物の減価償却費を大きく計上でき、日本での節税につなげられるでしょう。

☆国別の特徴(タイ)

タイの特徴としては、日本人駐在員が多く住んでおり、賃貸需要が期待できるという点が挙げられます。また、経済成長によって中間層からの需要も期待できるでしょう。また、土地つき一戸建ての取得は認められていないものの、リースは可能となっています。ただし、区分所有であっても総面積に対する割合が決まっていたり、政情や軍事に多少の不安が見られたりといったリスクにも注意したいところです。

☆国別の特徴(オーストラリア)

最後はオーストラリアです。オーストラリアは、移民政策の影響でシドニーを中心に人口が増加傾向にあり、空室率の低さが特徴です。シドニーの中心部は売り手市場で、需要に対して供給が追い付いていないともいわれています。また、新築の場合に限ってですが、土地付き一戸建ての所有も認められるなど、外国人の不動産投資に対して寛容な姿勢を見せている国でもあります。オーストラリアで外国人が不動産投資を行う場合、FIRB(Foreign Investment Review Board=外資投資審議会)からの許可が必要です。気になる許可の確率ですが、基本的には許可する方針のようでそれほど難しいものではないといえるでしょう。オーストラリアで不動産投資を行う場合、注意したいのが物件価格の高さと為替リスクです。人口増加と人気の高さを受けてか、シドニーの一戸建ては平均的な物件でも4,000万円クラスが最低ラインとなります。誰もが気軽に投資できる国とは言い難いかもしれませんね。また、オーストラリアドルは高金利かつ値動きが激しい通貨として有名ですので、取得するタイミングによって為替損失が発生する可能性も忘れてはいけません。為替レートには十分に注意するようにしましょう。